夜のスカイロフトから魔物がいなくなって暫く経った。外出しても危険は無くなったが、早寝する習慣が身に付いてしまった私は、未だに夜の散歩を楽しめてはいない。今夜も早々と寝巻に着替え、ベッドに向かおうとすると、戸を叩く音。

こんな時間に我が家を訪ねる人間なんて、このスカイロフトにひとりしかいない。


「ナマエ」
「リンク君!入って」
「パジャマ姿も可愛いね」


騎士学校に通う生徒のひとり――リンク君が、こうして私に会いに来るのも日常の一部になってしまった。私はもう騎士学校を卒業している。彼について、最初は母校のかわいい後輩、くらいにしか思っていなかった。私の寝ている間に家にやって来て、私のベッドで勝手に睡眠をとるのも、若気の至りというか、年上の女性をからかいたい年頃なのかな、なんて。そんな私が、彼の告白を受け入れて、お付き合いすることになるとは誰が予想しただろう。


「怪我してない?」
「大丈夫、健康だよ」
「紅茶にする?それとも、」
「……ねえナマエ、折角夜のスカイロフトも安全になったし、今日は散歩しようよ」


リンク君は私の手を取って歩き出す。私より大きくしっかりとした手は、彼が年下の男の子だということを忘れさせてしまう。こんな格好で出歩くの、と少し抵抗すると「可愛いからいいの」。思わず頬が熱くなってしまったが、彼の柔らかな金髪の間からは赤く染まった耳が見えた。

相手を追い駆けて燃え上がるような恋ではない。優しく甘い風に揺れる、野に咲くちいさな花のような恋愛。リンク君と一緒に居ると、心がほんのり温かくなって満たされるのだった。彼とはまだ手を繋いだことしかないけれど、年甲斐もなくそれだけで胸が高鳴る。彼と付き合い始め、幸せの本当の意味を知った。


「わあ、ホタル!」
「綺麗だよね、初めて?」
「うん……この川、こんなに幻想的な場所だったなんて」
「ナマエに見せたかった」
「ありがとう……」
「あはは、嬉しいな」


それから、他愛もない会話をしながら、夜のスカイロフトを周った。夜になると風も大分落ち着くようで、静かに流れる風が心地良く感じる。少し視線をあげれば、見渡す限り一面の星空。瞬く光の美しさにゆっくり触れるのは、これが初めてだ。初めての夜の散歩がリンク君と一緒で嬉しいと言ったら、彼は微笑んで、ぎゅっと手を握り返してくれた。





楽しい時間はあっという間に過ぎてしまう。私の手を引くリンク君は、私の家を通り過ぎ、騎士学校の前で歩みを止めた。


「今日は寮で寝ようかな」
「え、どうして」


リンク君がこんなことを言うのは初めてだった。以前は私が嫌がっても家に来ていたし、今日も当然家に泊まるものだと思っていた。戸惑いを隠せない私をそっと抱き締め、真っ赤な顔を近付けて彼は言う。


「だって、今日のナマエいつもより可愛い……一緒に寝たら、我慢できなくなる」


私は思わず背伸びをして、彼の唇に口付けた。


「良いよ、我慢しなくて」
「……ナマエ」
「大丈夫?」
「どうなっても知らないから」


今までは手を繋いだことしかなくて、ふたりのキスはこれが初めてで。茹でだこのようになったリンク君の顔を見ていたら、年上の私に合わせようと無理しているのかしら、と少しだけ心配になった。しかし、それが杞憂に終わることを、後に私はベッドの上で知るのだった。
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