数千年という時間を超えた激闘を終え、世界に本当の平和が訪れて間もない頃。スカイロフトにも嬉しい変化があった。


「リンク、ここにいたの!」
「おはようナマエ」


終焉の者を封印し消滅させた勇者は、伝説の始まり以前と変わらぬ生活――騎士学校での鍛錬に励んでいた。早朝の剣道場にやって来たナマエは、彼のために運んできた朝食の包みを隅にそっと置いた。


「毎朝頑張るわね」
「剣が変わったから、早くこの剣の感覚に慣れないと駄目なんだ」
「ごはん、ここにあるから」
「ナマエも毎朝、本当にありがとう」


ありがとう。その言葉を聞くだけでナマエは嬉しさで満たされる。リンクの言葉はすべて魔法の言葉だ。「またあとで、授業でね」互いに微笑みかけて、ナマエは剣道場を後にした。閉まる扉の向こうから金属音が響いていた。





ナマエはリンクに想いを寄せていた。しかし、他者の侵入を拒むような「幼馴染み」という肩書きがナマエには堪らなく羨ましかった。ゼルダもまたリンクに想いを寄せている事にナマエは気付いていたからだ。どちらもナマエにとって掛け替えのない大切な存在。だからこそ、リンクに対する想いを何処へ向ければいいのか悩んでいた。葛藤しているうちに、鳥乗りの儀の日はやって来て、事件が起きた。

大切な友人のゼルダが行方不明になってからというもの、ゼルダもリンクも手の届かない遠い世界に行ってしまったようで、ナマエは寂しさと不安に駆られていた。たまにリンクがスカイロフトに戻ってきても、話すのは見つからないゼルダの事、ナマエの知らない大地の事ばかり。世界を救う、というナマエには到底背負えないような重圧を抱え戦うリンクを困らせまいと、本心は隠して接した。笑顔で大地へと送り出した。それが辛かった。

だが今リンクの笑顔を傍で見る事が出来るのはゼルダではなく、ナマエだった。以前のように他愛もない話をして、勉強をして、普通の学生生活を楽しんでいる。ナマエは日常の幸せを噛み締めることが出来る。と同時に、ひとり大地に暮らす友人を思うと複雑な気持ちになるのだった。





「ナマエは僕の事どう思ってる?」


教室を出ようとしたところで突然リンクに声を掛けられ、ナマエは心臓が止まる思いがした。


「え……」
「あはは、へんな顔」


ナマエはリンクの意図が読めず困惑し、言葉が出せなかった。どうして今そんな事を聞くの、リンクは私をからかっているのかしら、それとも……。あらゆる方向に思いを巡らせ、ふと脳裏を過ったのはゼルダの顔。好き、と正直な想いを伝える事は、今のナマエには出来そうもない。


「………」
「ごめんごめん、別に今答える必要はないよ。ただ……ナマエは僕の気持ちにもう気付いてるのかと思ってたから、さ」


二人だけの教室はやけに静かだった。
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