山本や獄寺。
少し前あんなに仲の良かった友達から心無い言葉を暴力を投げつけられるとは思わなくて。
きっと月岡もそうだろうと諦めの表情で見上げれば

『だろうな』

ニヤリと笑ってツナの言葉を肯定した。
予想だにしない展開に驚愕の表情を浮かべた。殴られたせいで赤く腫れ上がった唇が戦慄く。

「信じて、くれるの…っ?」
『いいや。私はお前と深く関わった事はないからな。信用も信頼もしていない。だが、1年間沢田綱吉という人間を見てきた結果、私はそう判断した』
「オレ…?」
『そう、沢田だ。成績も悪けりゃ運動もダメ。ダメツナなんて不名誉なあだ名付けられて罵られて馬鹿にされて。腹は立てても手を上げる事だけは絶対にしない。…他人に手を上げる事に躊躇するヤツが女相手に暴行なんて出来るかよ。やる時ゃ、大切な誰かを傷つけられた時だろ』

ぽろっと、涙が勝手に流れた。堰を切ったかのようにどんどん溢れて止まらない。自分の事を理解してくれる人がいるのが無性に嬉しかった。

仲間だと、友だと思っていた彼らはいとも簡単に自分を見限りあの転入生の女の元へ。
それどころか頼りにしていた家庭教師も、母も父も何故かあの女の側へ行ってしまって。独りがどうしようもなく寂しくて、理解してくれる人がいないというのが苦しくて。…自殺も、ぼんやりと考えるようになっていた。
みっともなく泣きじゃくるツナを月岡はただじっと見て

『まぁったく、女々しいったらありゃしない』

くつり、と軽く喉を震わせて笑うとツナへとそっと手を差し出した。一体何だろうときょとんと目を瞬かせれば睫毛に乗った雫がぽとりと落ちる。傷に染みて、少し痛い。

『そうだな、とりあえずは手当てして腹ごしらえといこうか。お前どっちも満足に出来てないんだろ?』
「なん、で、知って…」
「はっはっは、俺の情報網を甘く見ないでもらおう!」
『そーゆーこと』

自慢気に笑い声を上げたのは共に入ってきた男の1人。機械類にとても強いというのを噂程度に聞いた事がある。
それにしても。家から迫害を受けていると知られているだなんて。恥ずかしい。

『ま、今時ネグレクトなんざ珍しくもないがな。ほら、さっさと手ぇ取れよ。疲れるだろーが』
「あ、うん… …っ!」

差し出された手を借り起き上がれば体中に走る痛みに声にならない悲鳴が上がる。蓄積された痛みが爆発したんじゃないかとすら思ってしまう程だった。
自然と体は傾き、倒れる。固いコンクリートに叩きつけられる、とぎゅっと目を瞑ると何やら肩を掴まれる感覚。恐る恐る目を開ければ月岡がツナの肩を支えていて。そのままゆっくりとその場に腰を下ろされた。

『シュウ!沢田の手当てさっさとしろ!飯が何時まで経っても食えやしねぇ』
「言葉づかい言葉づかい!」
『うるっせぇカズ。こちとら腹減ってイライラしてんだ!』
「はいはい分かりましたよ。カズ、そっち頼む」
「あいよ」

重箱をカズと呼ばれた男子生徒が持ち、3人分のカバンをシュウと呼ばれる男子生徒が持つとスタスタと此方へ。
ここ最近の出来事のせいで人に囲まれるのが怖い。前はあんなに楽しかったのに。シュウがツナの前に膝をつき、黙々と手当てを始めるのを見て月岡がまたニヤリと笑った。

『さぁて、じゃあこれからの事を話そうか』

それはもう悪役に相応しい笑みであったが、どうしてかツナには彼女が救世主にしか見えなかった。

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