体中が痛い。
指一本動かすだけで全身の骨と筋肉が悲鳴を上げる。ぼんやりとする視界いっぱいに広がる青空が無性に寂しく感じた。

「(…日に日に、酷くなってくなぁ…)」

どこか他人事のように考えてしまうのは、一種の逃避行動なのだろう。認めたくない現実はこうして体に残ってしまっている。
見たくないのに見えてしまう。治療すれば痕も残らないのかもしれない。けれど今では治療することすら出来ない。
きっと生涯癒えぬ傷となってツナを苛むのであろう。

動くのも億劫で無言のまま屋上のコンクリートに寝っ転がっていればチャイムの音が聞こえる。確かこれで昼休みに入るはず。
このままここにいればまた暴力の的にされてしまう。
隠れたほうが身のためというのは分かってはいるがどうにも面倒で。諦めなのか悟りの域なのか。自嘲気味に薄く笑うとガチャリと屋上の扉が開いた。

「やっぱ分厚きは国交省の壁かぁ〜」
『だろうな。流石にロケットエンジン積んだ自転車走らせてはくれないべ。以前借りてた倉庫は?』
「あそこも…。以前やった実験で支柱折りましたからね。2つ返事で許可はしてくれないでしょう」
「打つ手ナシ?」
『それぐらいのほうが燃える』

何やらワイワイと話ながら入ってきたのは男女の3人組。うち1人は確か1年の時同じクラスだったのを覚えている。
あまり話したことはないけれど、他のクラスメートと違って一度も自分をバカにしなかった。そのせいか他の人より好印象を勝手に抱いていて。

自分を傷付ける、2-Aの連中じゃなくて少しだけホッとする。けれど彼女らもまた、嘗ての友人たちのように裏切り暴力を振るうのではないかと疑ってしまう。
人は変わり裏切る生き物だとこの短い間で知ってしまった。しかしツナの不安を余所に3人組はフェンス際にどっかりと円を描くように座り込み。

『シュウ、今日の昼飯は?』
「お昼ご飯」
『…お昼ご飯はなんですか』
「良く出来ました。今日はサンドイッチをメインにしました。付け合わせにポテトサラダとサーモンのマリネ。デザートはまるごとオレンジゼリー」
「うぉー美味そう!」

『お前マジいつでも嫁に行けるな』
「貰ってくれます?」
『だが断る!』

隠れるでもなく屋上に横たわるツナをまるで無いもののように扱って、ガヤガヤと雑談に花を咲かせる3人。暴力も嫌だが存在を無いものとされる… 無視のほうが嫌だった。
悲しい。苦しい。此処にいるのに声が届かない。

「ぅ…っ」
『めそめそ泣くなよ。女々しいなぁ』
「 ! 」

涙が滲んで思わず小さく嗚咽を漏らせばすぐ横から声が振ってくる。弾かれるようにしてそちらへ顔を向ければ何時の間にか先程の3人組の1人が、胡座をかいて座っていた。
確か彼女は

「月岡さん…」
『よぉ沢田久しぶり。しばらく見ない間にお前随分なことになってんじゃねーの』

嘗てのクラスメートだった彼女。
相変わらず女子にしては男っぽい口調。綺麗な外見に似合わずな喋り方に性格。それ故同じクラスの女子には敬遠されていた。

しかしそれを少しも気にすることなく、後ろの2人と連んでいて。毎日とても楽しそうだった。くつくつと同い年の女子にしては随分と大人っぽく、そして男っぽく笑う。

『聞いたぞ沢田ーぁ。お前転入生に暴行加えようとしたらしいな』
「…っ」
『チキンヘタレ野郎とばかり思ってたがやるじゃないか』
「オレは…っ そんな事、してない…!」

もう何度言ったか分からない言葉を吐き出す。
手を、足を上げられ罵倒される度口にしてきた。けれどそうすればそうする程向けられる悪意は強くなり。それが目に見える形になって返ってきても、やってもいない事を認めたくはなかった。

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