『こりゃまた派手にやってくれたな』

受け身というより組手の練習から帰宅したところで衝撃の光景が広がっていた。
月岡の家は集合住宅。所謂マンションだ。それの3階角部屋に位置している。セキュリティはそれなり。ロビーでカードキーをスキャンしないと中に入れない仕組みだ。来客も住人が許可しないと入る事は出来ない。まあ不法侵入しようと思えば出来るっちゃ出来るが。
さて、何が言いたいのかというと。

「おかーり。見ろよこの有り様。ベタすぎじゃね??」
『たでーま。確かにベタだな〜。玄関に生ゴミ引っ掛けるとか』
「ベタすぎて何の驚きもありませんねぇ」
「(何処かでこのやり取り見たぞ…)」

ほんの2週間前の、実家でのことを思い出す。人の家を散々普通だと罵… いや、そういったつもりは無いのだろう。感想を言ってくれて。今も同じようなセリフを吐いてはいるがその緊張感の無さに反比例するように眼前はとんでもなくシリアスな状態となっていた。

彼女の発言にあったように、月岡の家の玄関には生ゴミがぶちまけられ所々に虫の死骸。それはドアポストにまで及んでいるからきっと中も被害に合っているだろう。
どうしてこんな事になっているのか。直ぐに分かった。ツナを匿っているからだ。それに先日の学校でのいざこざ。何がしか嫌がらせはされると思っていた。学校のほうでされなかったのは拍子抜けだったが、成るほど。自宅に。
両方こうされると考えていたが…。ああ、学校を汚せば彼の風紀委員長が黙ってないからか。人の家の玄関に生ゴミを投げつける。その陰湿な手口に相応しく、肝も小さい。

『お前らの家は大丈夫か?』
「確認取ったけど何もないってさー」
「うちも、今確認取ってみます」

ツナを背中に背負ったままズボンのポケットからスマホを取り出すと手早く操作して耳に当てた。松浦がそうしている間に、月岡は次の指示を出す。

『カズ、写真は?』
「撮影済みー。設置しといた監視カメラもバッチリ動いて撮れてたぜ。どうする?」
『犯人特定してそいつに映像から抜粋した写真と、これがどういう罪にあたってどれだけの刑罰を与えられるのかをメールしてやれ。もちろん本名と家族構成アーンド住所も添えてな』
「アイアイサー!」

バレているぞ、と言葉もなく脅す。
恐らくというか十中八九並盛の生徒だろう。それが何年生であろうと、この事が親や学校そして警察に知られでもしたら今後の将来設計が崩れる。夢があるなら尚更。高校、大学進学は大事な足がけとなる。
それをたった一度の過ちでダメにしてしまう。犯罪とはそういうものだ。過去には戻れない。やるなら覚悟を決めるか、決してバレないようにするべきだ。自分達のように。

松浦が電話を切る。何も無かったようだ。月岡程ではないが彼の家庭環境も中々に複雑だ。家に迷惑が掛かるような事態になれば面倒なことになるのは明白。それを回避する手腕を彼は有している。最近では家族を上手く扱えるようになってきたらしい。それは俗に調教や洗脳と呼ばれるもの。褒められた行為ではない。

けれど人間誰しも我が身が可愛い。平穏無事に日々を過ごしたいが為だ。まあそんなのは建前で。
松浦の本音としてはただの練習である。今現在こうして。普通の、ごく一般的な中学生とはかけ離れた毎日を過ごしている。今がこうなのだ。将来的にはより忙しくなるのは必定。どんな分野のどんな知識が必要になるかは分からない。

出来ることは多いに越したことはない。彼女に着いていくのならどれだけ知識と技術はあっても困らないのだ。現にこうやって法についての知識が役立っている。

「この場合住居不法侵入も該当しますね。オートロック式の建物に入り込んでの暴挙ですから」
「生ゴミぶちまけんのはー?」
「廃棄物処理法違反。妥当に行けば懲役1年、執行猶予2年。しかし少年法とかクソみたいなのがあるから期待は出来ないな」
『だが経歴に傷をつけることは出来る』
「えぇ、それはもうたっぷりと」

罪に問うことが目的なのではない。
相手を脅かす事が目的なのだ。

人を負ぶりながらそんな物騒な話をする3人にため息を禁じ得ない。最早注意する気も起きないどころか、またかと思う辺りツナも相当毒されてきている。とっくに平穏な日常は遠退いてしまっていた。


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