並盛の少し外れにある森林。手入れの行き届いた公園とは違い木は好き放題に生え折れた枝が散乱し、雑草は伸びている。人が進んで入るような場所ではない。
だというのにそんな中を動き回る3つの影。

『オラオラオラどうした沢田ぁ!そんなんじゃまーた傷だらけだぞ!!』
「…っ!そ、んな事言っても…っ」
「沢田さん、視力だけを頼りにしないで感覚も総動員して対処してください」
「感、覚…っ?」

なんて無茶をさらっと言ってくれるんだ。月岡の猛攻を既でのところで躱しているツナだがそれもホントにどうにかギリギリ。彼女の動きを1つとして見逃すまいと眼を忙しなく動かしての事だというのに。松浦はそれだけに頼るなと言う。感覚ってなんだどうやればいいんだ。
そもそも自分は死ぬ気モードでないとまともに戦えない。体力だって中学生男子の平均以下だ。それがこうしてあの月岡の攻撃をどうにかこうにか避けれるだけ大したものだと思ってほしい。例え彼女が1mmも本気を出していないとしても。

平坦な、舗装された道路とは違って足元は枯れ葉や木葉だらけ。つまり足場は悪い。そんな中焦りつつも松浦の言う感覚とやらを探る。しかし考えながらであれば足元への注意も散漫になってしまうというもの。
後ろへ引いた足がずるりと滑る。これだから腐葉土は困る。体のバランスを崩せばその隙を逃さず月岡がツナの腹部目掛けて蹴りを入れた。もちらん手加減して。全力でやったらツナの腹部なんぞ突き抜けてしまう。

「…!?」

しかし手加減されていても痛いものは痛い。骨の軋む音を聞きながら意識を飛ばしそうになる。いっそ失えたら楽だったろう。痛みに悶えながらも胃からせり上がってくるものを耐えきれず吐き出した。

「…ぐ、お゛ぇえ゛!」
『げっ、やり過ぎた』
「嵐ストップ。一端止めにしましょう」
『へいへい』

ドクターストップが入り、仕方ないと月岡は上げていた足を下ろした。間を開けるように2歩ほど下がればその間に松浦が入ってツナの背中を擦る。吐くだけ吐いたのを見てすかさずミネラルウォーターを渡し、飲ませる。口を濯いでそれを吐き捨て、今度は一気に飲む。
ようやくそこで一息ついたツナの表情は酷いものだった。嘔吐から来る疲労、腹部の痛み。顔色は真っ白で焦点もあっていない。

数度その頬をぺちぺちと叩いて気を戻させる。ゆるゆるとこちらを見るツナと目があった。

「大丈夫ですか沢田さん」
「あ… うん…」
『そうでもなさそうだな。今日はもう止めにすっか』
「嵐」
『分かってる悪かった。チャンスだと思ったらやっちまった』

2人の力量差は言うまでもない。にも関わらず月岡が己を律するのを弱めればどうなるか。わざわざ説明するまでもなかった。
来週にはツナは学校に復帰する。月岡たちの指示あっての事だが、そうなれば再び暴力が始まるのは明らか。負う怪我を少しでも減らすためにこうして月岡と松浦とのトレーニングに励んでいた訳だが…。これでは復帰するどころか病院送りだ。避けたり受け身を取るだけのトレーニングだと思っていたのに、と口が上手く回らないので脳内で考える。

『立てるか沢田』
「…ちょっと、無理か、な…」

足はガクガクと震えて力が入らない。後ろの木に支えてもらってどうにか今の姿勢を保っている状態。立ち上がるなんて到底出来そうにない。その様子を見て松浦はゆっくりと立ち上がる。彼をおぶって帰ろうと考えたのだ。この組み合わせでなら自分がおぶるのが妥当。空のペットボトルをリュックに入れ、いざそれを提示しようとした時

『しゃーねぇ、私がおぶってやる』
「えっ」
「嵐、流石にそれは男としての稔侍が…」
『私だって女なのに男をおぶさるという試練に挑むが?』
「別に気にしないでしょう」
『おう!』
「そんな自信満々に」

加減を忘れて吐くまでさせたのは自分に非がある。だからその責任を負ってツナを運ぶと言うのだが、そう思うならこれ以上男としてのプライドを傷つけてやるな。そう諭せば渋々頷き。ツナはホッと胸を撫で下ろした。

腕力的には心配は1つもない。やろうと思えば1tトラックを軽々持ち上げられるから。あれを初めて見たときは同じ人間とは思えなかったものだ。道を塞ぐ木を軽く蹴飛ばして退かす彼女を見てありし日のことを思い出した松浦だった。

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