「はーい無事解析出来ましたー」
「…大丈夫?」
「なんとか」

ツナがそう声を掛けてしまうのも無理はない。へらりと笑う安達の右頬には大きな湿布が貼られていて。先日の、映像解析中に起こったハプニング。画面に向かっていた安達が暗示に掛かりかけていたのを、文字通り力ずくで月岡が正気に戻したのだ。
端から見ても結構な力で殴っていたと思ったが、こんなに頬を腫らすとは。それでも手加減はしたろうから注意も出来ないが。

この週末の土日。で解析すると息巻いていた3人だが結果4日掛かってしまった。4日で出来ただけ、彼女らの年齢を考えれば大したものなのだが…。目標を達成出来ずに落胆していた。失礼な話、その姿が年相応に見えて。この人たちも自分とそう変わらないんだなと身近に感じてしまった。そんな訳で今日は水曜日。学校は普通にサボった。

「で、こないだ掻っ払ってきたデータを解析した結果見事オレらの予想通りサブリミナルぶっ込んでた」
「やっぱり、あの時安達くんがおかしくなったのって…。」
『いや、アレはサブリミナルだけのせいじゃねぇ』
「えっ?」
『冷静になって考えてもみろ。サブリミナルだけであんな状態になるか?』

ツナはそっと首を横に振った。彼女ら程詳しい訳ではないがそれだけであんな狂気染みた姿になるとは到底思えない。そう思ってNOと示したがどうやら正解だったようだ。月岡がニヤリと笑った。

『その通り。いくら何でもカズを、人間をあんな風に出来るわきゃねぇ。他にも何か仕掛けがあるハズだと思ってな』
「映像持って、以前お邪魔した六道骸さんに会ってきました」
「えっ骸に!?」

そう言えば月曜の午後松浦は夜まで帰ってこなかった。てっきり実家にでも一時帰宅したのかと思っていたがよもや骸に会いに行っていたとは…。
という事は。

「幻術が掛けられてたの…?」
『ご名答。六道曰く薄くだが強烈な印象と暗示を掛けるように施されてたらしい』

薄いのに強烈とはどういう事だろうか。ツナが首を傾げれば松浦が補足を行った。

彼女らも幻術なんてものに今回触れたのが初めて。故に知識の全ては骸から。もし偽りがあったとしてもそれを判断する事も出来ない。まあ嘘をつかれても構いやしない。難易度は高ければ高いほどいい。その骸の言葉を借りるなら、薄くて強烈というのは全体に掛かっている幻術自体は薄いのだが“印象”と“暗示”の二点だけが強くかかるようにしてあり。更に超一流の術士である骸はこんな考察も口にした。

「これだけではいくら何でも弱すぎる。まだ何か… 必要なハズです」

と。それを踏まえて月岡はこう結論を出した。

『この映像に仕込まれたサブリミナル、幻術。そして君島本人と会うことで全ては完成する』

つまりはこの3つが揃って初めて、並中の生徒たちのように君島夏穂に心酔するようになるのだ。恐らくは定期的に君島に会わなければ効果は薄れ、やがては正気に戻る。ではイタリアにいるマフィア関係者はどうやって落ちたというのか。答えは簡単で、向こうには子会社があるからだ。
一度会い、落ちてしまえば後は楽なもの。何もせずとも禁断症状が出て勝手に会いにやって来る。まるで麻薬のようじゃあないか。中毒性と依存性に優れた。

それを聞いてツナは背筋をゾッとさせた。そして改めてあんなのの虜にならなくて良かったと。
だってそんな。
自分の意志とに関わらずだなんて。そんなの死んでるのと一緒じゃないか。



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