翌日。土曜日の昼過ぎのこと。必要なものを盗るだけ盗って月岡の家に戻った4人はそのまま一晩過ごし。7:30起床。朝食や身支度を整えて9:00に行動を開始した。事前に用意しておいた機材とそれらを繋ぐケーブルやらでリビングが埋まる。
もし引っ掛かって転んで、挙げ句ケーブルを抜いてしまったら最悪だな。と1人ツナは思った。この中でそれをやらかす可能性が一番高いのは自分だとしっかり理解して。

フラッシュメモリを差してパソコンに向かい合うのは安達。月岡と松浦もパソコンに触れてはいるが今回は彼がメインとなって持ち帰ったデータの解析を行っていた。こういったパソコンや機械類は安達の得意分野。たった1人で3台も同時に操作してデータ解析を行うなんて。実家が電器店を経営してるとは言え、これは些か…。
可笑しいと考える人間がこの場にいる筈もない。

月岡は勿論、冷静に状況判断する松浦だって。普通の中学生とは到底思えない。でも多分それ以上に可笑しいのはツナだろう。決して公に出来ない背後関係も、その身に宿る炎だとかも。この場にいる全員が"普通"とは一線を画している。それを誰もが理解しているから居心地がいいのかもしれない。前もそうだった筈なのに、もう随分と昔のことのように感じた。

順調に進んでいる「沢田綱吉脱☆イジメ計画」(月岡命名)。果たして全てが終わった時自分はどうするのか。予想もつかない。

今の時間ツナに手伝えることは無い。ので大人しく月岡に渡されたプリントをこなす。何重にも重なるタイピングの音。それをBGMにゆっくりと黙々と問題を解いていく。1問2問と解きながら飲み物に手を伸ばし。また続きへとシャーペンを走らせたところでふと違和感を感じた。

「(なんか……静か?)」

会話は無かったがずっとカタカタ物音がしていたのに、はたとそれが止んでいるのに気付く。顔を上げればそれに気付いた月岡と松浦が顔を見合わせていた。
アイコンタクトでのみ会話を済ませると先んじて松浦が立ち上がる。それに続くように月岡も立ち、やたらと静かになった… 安達の元へ行く。薄すらと立ち込める不穏な空気。察してツナも立って2人の後を追う。

リビングの真横の和室。安達1人で和室を使っていたのだ。コード類の関係もあって襖は開けっ放し。前に立つ2人の間から覗き込めば、安達がパソコンに向かったまま手を止めていた。
掛けているメガネに画面の光が反射して言い知れぬ恐怖を仰ぐ。

「…………カズ?」

訝しみながら松浦が名前を呼ぶ。ピクリと小さく反応し、やがてゆっくりと安達が振り返る。その表情にツナはゾッと背筋を冷やした。
一切の感情の抜け落ちた顔。淀み、焦点の合ってない瞳。何より恐ろしいのはずっと何事かを呟き続ける唇だ。

「夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ夏穂を愛せ」

ぶつぶつと決して大きく呟かれないそれは厭に耳に入ってくる。まるで呪詛のように彼の唇から漏れる義務のような強制。ヒッとツナが声を漏らす。
それとほぼ同時に動いたのは月岡だった。だん!と強く畳を踏み締める。そこから月岡がどれ程お怒りなのかは伺い知れよう。そして怒りを抱えたまま安達の胸ぐらを掴み、その頬を思いっきり殴り付けた。勿論グーでだ。

「んなっ!?」
「あー…」

勢いのまま安達は壁に背中と頭を強かに打ち付け。あまりの痛みに頭を抱えもんどり打っている。どうやら意識は戻ったようだ。荒々しすぎる治療法にいよいよ彼女の性別を疑いたくなる。どこからどう見ても女の子なのに。

『テメェこの野郎!何気ぃ抜いてんだ!私の部下がそんなんでどうする!!
「………あい、すんません、ボス…!」

自分が何をしていたのか。それを覚えているのか悶えながらも安達は激昂する月岡に謝り。この歳で上司と部下の関係を築いていることに驚けばいいのか何なのか。

擦る手を頭から頬へと移し唸る安達を見て、松浦がキッチンへ行く。冷やすものを取りに行ったんだろう。
色々なことが起こりすぎて呆けてしまっているツナを置いて、月岡が顔を歪めてパソコンを睨む。しかし口元はこれ以上なくです楽しげに笑んでいた。

『思ってたよかやってくれるじゃねーか…。クソ面白ぇ』

実に好戦的に笑う姿は確かに強者であった。



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