普段もパソコンを扱っているのは何度も見たがこんな速くは無かった。今見ているこれは月岡の本気ということか。

『はぁい終了っ』

ピピッ
自然の音とはかけ離れた電子音が小さく鳴り点灯していた赤いランプが青に変わった。これで安全に通れるというのが一目で分かる。ケーブルと投影型キーボードを回収すると再びほふく前進を始める。そのゲートのような警備システムを通過しても警報は鳴らなかった。
なんと言うか、拍子抜けだ。大企業とまでは行かないが一企業がこんなにあっさり侵入を許していいものか。

そんなツナの心を読んだかのように安達が口を開いた。

「嵐がいると面白いぐらい難易度下がるよな」
「不測の事態が起きなくていいじゃないか」
「ま、ね」
「…なんか、つまらなそうだね」
「んー、ちょっとぐらい手こずるのも楽しいかなとは思うけど」

それは少し分かる。自分もテレビゲームをしていてそれのクリアが思っていたよりも簡単だと満たされない事がある。手応えがないのだ。難しすぎてもあれだけど簡単すぎても。けどそれはゲームの話。
これは現実で、冷静に見てはいるが犯罪に手を染めている真っ最中。普段あれば猛抗議するところをどうして。自分の身が可愛かったのか彼女らの空気に呑まれたのか。
そう軽々と答えは出ない。

なら今考え込むのはやめよう。月岡たちが頑張っているのを見届けるしかないのが歯痒いが、せめて目を逸らさずに最後まで見届けたい。

安達たちが開き向かい合っているノートパソコンを再び見る。考えに耽っていたのは僅かだというのに彼女はもうシステム室のある階まで到達しようとしていた。速くないか。

【嵐、その先2mほど行けば天井板があっから。それ外して降りればシステム室にドンピシャだぜ】
『アイサー』

指示に従って前進すれば四角い天井板が確認出来る。そこまで進み持ち込んでいた十役ナイフを使いこじ開け。するりと音もなく降りた。
そこは会社のサーバーが一挙に集まっていた。奥には扉。あちらにはパソコンやらが並べられている事だろう。さて、素人目には何が何やら。この中のどれかが映像関係に繋がるはず。よしんば無くても、次は君島の家を探せばいい。辺りを見渡しながらインカムに手を添えた。

『侵入成功。次は頼んだぞカズ』
【おぉよ任せちゃって。んじゃま、カズ行きまーす!】

どこかの機動戦士に出てくるようなセリフを言って、タタンッと軽快にキーボードを操作し始める安達。すると画面が切り替わり見たこともないそして意味も分からない文字が並び始めた。所々画像もあるようだが…。
首を傾げていればそんなツナに気付いた松浦が小さく声を掛けてくれた。

「今、カズがハッキングして我々が探しているモノを見つけ出してるんです」
「へぇ…。」

ハッキングが罪になることも分かっててやってるんだろう。この人たちは全ての行動が確信犯だ。
上げるべき声は何故か引っ込む。もう今さらそんな事を突っ込むのも、と思ったのだろう。懸命な判断だ。

とても速くキーを叩く音だけがこの灰かぶったような廃ビルに響く。何も知らずにここに来てしまったならばこの音を聞いて不気味なモノと捉え情けない声を出していた事だろう。聞き覚えのあるものでも時と場合によっては恐ろしいものとなる。

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