回線が切れるのを聞いて月岡は進み始める。普段人の手が入らない場所だからか埃が溜まっている。それが空気と共に舞ってくるのだから堪らない。嫌だ、と思いはしない。こんな経験滅多にないからだ。

自分たちが知りたい事の為にこうして忍び込んだのは過去にもあれど、今回は少し勝手が違う。各階のトラップを自力で突破しなければならないのだ。それだけなら別段問題はないが正直。月岡1人で事を成すのは初めてだったりする。
いつもは松浦が策を講じて月岡と安達が連れ添いながらサポート。現場にはアクシデントを考えて2人が基本だった。
これも作戦の内と考えれば大丈夫。

『(緊張してるのか…?らしくもない。だが年相応ではあるか)』

冷静に己を分析するだけの余裕があれば平気だろう。埃の中では深呼吸もままならない。ので気持ち深呼吸をして前を見据えた。ぐっと腕に力を込めていざ発進。どこぞで訓練を受けてきたのかと思うほどそれは滑らかで速さがあって。インカムに備え付けられたカメラから様子を見守るツナはその目まぐるしさに目を回しそうになってしまった。

3台ほど置いてあるパソコンにはそれぞれ違う映像が映し出されており。その内の1つはマップに赤い点が印されている。恐らくこれが月岡だろう。ツナにはよく分からない何かを色々と装備させていたから、その中に発信器も。多すぎず少なすぎず。文字通り必要最低限を持って挑んでいた。

最早リアルタイムの映像を見ても彼女がどこにいるのか検討もつかない。かといってマップを見ても分からないのだけど。余計にハラハラしながら動向を伺っていれば動きっぱなしだった月岡がピタリと止まる。

『2Fに繋がる部分に到着した。これからトラップ解除に取り掛かる』
【了解】

1Fと2Fを繋ぐちょうどその場所にはやたらと厳重な機械が嵌め込まれていた。ただの会社にしてはこれはちょっと行き過ぎじゃないか? 未公開の映像が外部に漏れるのを恐れるのは分かるが、それでもここまでする必要はない。
以前にこのルートを使って侵入されたか或いは余程人に見せたくはない何かがあるか。後者だろうと予測をつける。

この会社の経歴を調べ尽くしたが侵入されたのは一度だけ。それも金品を狙ってのもの。これだけの大掛かりな警備システムを導入したのはそれから約3年後。君島夏帆が並中に転校してくる3ヶ月前のことである。裏を見ない馬鹿はいない。
自然と口角が上がる。難易度は高ければ高いほどイイ。

持ち込んだ荷物の中からケーブルと投影型キーボードを出しそれと警備システムとを繋ぐ。赤い光で浮き出るパネルを叩き、一見すれば無意味な文字の羅列にも見える沢山の暗号文。それを一文字も抜くことなく凝視しつつ手元のキーボードを叩いていく。それを、やはり画面越しに見るツナは速さについて行けなかった。

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