そういうリアクションを取るだろうなとは予想していたけども、その通りの反応を本当にされると些かつまらないものがある。ので、口をポカンと開けて呆けているツナの眉間を指で突いた。

「い…っ!?」
『もっと新鮮なリアクション出来ねーのか沢田ぁ。つまんね』
「月岡さんはオレに何を求めてるの!?」
『求めてるとか…。引くわー』
「下ネタじゃない!」

玄関先だというのにまぁ騒ぐ騒ぐ。ご近所迷惑だとか考えていられない程月岡は酷い状態だった。制服は不自然なほど新品だというのにその頬やスカートから覗く足には生々しい傷跡。ガーゼや湿布を貼ってあるところもあるが…。恐らく手当てを担当した松浦の手持ちの治療道具が尽きたのだろう。
ケロリとしている月岡本人の後ろで何とも言えない表情をしていて。それが全てを悟らせた。

しかし一体月岡は何をしてきたのだろうか?
学校に行ったはずなのにこんな大怪我をして帰ってくるなんて。

「え、どうしたの本当に。 …! まさか、リボーン達に…っ」
『いや、ちょっくら雲雀とキャットファイトを』
「あれのどこがキャットファイトだ!」
「2年の廊下を大破なんととんでもない事がそんな可愛らしいものの訳がないでしょう」
「廊下大破!?」
『ちょっと頑張っちゃった☆』

“ちょっと”で廊下大破なら“物凄く”になったらどうなるのか。校舎破壊かそれよりもっと?やめよう、想像するだけ恐ろしい。

詳しい質問は後にするとして、まずはそろそろ玄関から中に上がろう。月岡の手当てをしなきゃならないし。まずここは彼女の家だし。通せんぼするように立ちはだかっていたツナはサッと横に避け、月岡たちを家に入らせる。自分は一番最後に回って施錠。何が起きるか侵入されるか分からないとは松浦の言葉。
何をそんな馬鹿な。ただの防犯だろう。と笑いはしたが段々と笑えなくなってきたのは最近だったりする。

豪快に男らしくソファに座る月岡の隣にそっと腰を下ろす。対照的な2人に向かい合った安達が苦笑いを溢した。早速と言わんばかりにツナが口火を切る。

「それで、どうしたのそれ…。」
『まあ落ち着けって。見た目はこんなんだがな、それも今のうちだけだ。2、3日すりゃ全部治る』
「金曜の夜に予定している潜入捜査そのものには影響りませんから」
「聞きたいのはそんな事じゃなくって!」

声を荒げるツナをまあまあと宥めるのは安達。心配しているというのにそれを意にも介さない。するだけ無駄だということも必要もないことは分かっている。それでも心配してしまうのが沢田綱吉だった。
松浦が淹れたコーヒーを自分のも含めて席に置く。そのコーヒーの香りに少しだけ落ち着きを取り戻した。

ミルクと砂糖を入れ、甘さとまろやかさがたっぷり混ざったそれを飲めばまた少し心が落ち着く。よし、もう一度聞こう。

「で、ホントはそれどうしたの?」
『…あー、さっきも言ったが雲雀とガチバトルに発展してな。盛大にやらかした結果がこちらです』
「でもその割には制服汚れてないよね」
『雲雀がくれた。アイツ私のこと大好きだからさー。また戦わせる為にアフターケア半端ねぇのwww 』

これを聞いたら雲雀さんキレるだろうなぁ。とぼんやりツナは思った。それにしても、いや予想はしていた。ちょっと頑張ったぐらいで廊下を大破出来る実力の持ち主だ。雲雀とタイマン張って無事に帰ってこれるぐらい。何てことはないのだろう。

けれど何かが引っ掛かる。何が?

雲雀と対等に戦ったという点だ。それに違和感を覚える。月岡はもっと、雲雀よりも、自分よりも、あの元家庭教師よりもずっと

『テメェこら沢田。また人の話無視かコノヤロー』
「えっ!?あっ、えっ、ご、ごめん!何の話だった…?」

しまった。考え込み過ぎて話を聞き逃してしまった。出来るのなら咄嗟に取り繕って聞いていたフリをしたかったがそれをしたらマズイ気がする。色々と。最近はこの身に流れるボンゴレの血を疎ましく思うことも多々あったが、こういう状況に陥ると超直感の存在を有り難く思う。
だって聞いてたフリなんてしたら絶対月岡はキレる。断言出来る。

素直に謝り、聞いていなかったと言えば舌打ちはされたがそれ以上は何もなかった。

『君島の親の会社に潜入の件だ。決行は2日後の金曜夜11:30に開始。それについてこれから時間たっぷり掛けて作戦を立ててゆく。今度はちゃんと聞いたな?』
「う、うん…。でも2日後ってその怪我じゃ」
『心配いらねーよ治っから。どこもかしこもハイスペックなお陰で怪我の治りは早えーんだわ』
「…自覚はあるんだね」
『そりゃぁな。こんだけ他人と能力が違って尚も自分は普通だと思ってたらただの阿呆だろ』

回りと違うことに劣等感や焦燥感を抱くことはない。違って何が悪い。誰しもが皆人とは違う部分を持っているのだ。俗に言う個性というやつ。自分はそれが人から頭十つ分、抜きん出ているだけだ。何も変な所はありはしない。

それに、人より優れているという事はその分出来ることが多くなる。己のこの尽きることを知らぬ好奇心と探究心を埋めるには丁度いい。それでも満足はしないが。


まるで痛みを感じないとばかりに月岡はゆっくりと足を組んだ。

『さぁ、君島の泣きっ面を拝む策を企てようじゃねぇか』



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