ーそこからは一進一退の攻防であった。
互いに攻撃を当て、防ぎ。気が付けば2人の周りは瓦礫だらけで所々血が飛び散っている。制服も同様にボロボロで戦いの熾烈さを物語っていた。

いつまで続くのか。いつまでも続くのだろう。そわな考えに2人が至ろうとしていた時終わりは唐突に訪れた。

「恭弥くん!!!」

ボロボロになっても尚お互い一歩も引かず殴る蹴るを繰り返していれば不意に入り込む第三者の声。水を指すそれに怪訝そうに2人同時に声のした方を向く。瓦礫の中で、1人の女子生徒が立っていた。
それは遠巻きにしか見たことのない君島夏穂。その人で。ツナを貶めた悪女っぷりはまるで無く懸命に争いを止めようとする健気そうな一生徒が出来上がっていた。大した演技力だ。反吐が出る。

「ダメだよ喧嘩なんて!そんな怪我までして…っ 保健室行こうっ?」
『えー なにお前“恭弥くん(はぁと)”なんて呼ばれてんのwww』
「うるさい。許可した覚えもないのに勝手に呼ぶんだよ」
「恭弥くん!なんで私の言うこと聞かないの!?」

その余りの傲慢な言い方に思わず月岡は吹き出した。蹲り肩を震わせるその一方で雲雀はぶちりと己の堪忍袋の緒が切れる音を聞いた。所謂怒気というものを雲雀から感じる。

なかなか引かない笑みをそのままに、気を利かして雲雀の眼前にコンクリートの欠片を放り投げれば。それを粉砕しない程度の力でトンファーで叩き君島へ打ち込んだ。
メジャー選手も真っ青の豪速球。それが一直線に君島に飛んで行く。このままなら恐らく顔に当たるだろうなぁとぼんやり考えていれば君島と飛んで行く瓦礫の間に人影が滑り込んできた。

おや、と思った瞬間コンクリが人影に当たる。嫌な音を立ててぶつかれば自然とその人も倒れて。そうして漸くそれが誰か分かった。銀色の髪をした、獄寺隼人だ。
数十分前雲雀の手により昏倒したと思っていたが。

『何、雲雀手加減したん?』
「そんな訳ないでしょ。ちゃんと病院送りにするつもりでやったよ」
『ならダメージを上回るほど、アイツへの想いが強かったってことか』
「隼人くん!隼人くん!?」

返事が無い。ただの屍のようだ。と言ったら怒りの矛先はこちらに向くだろうか。それはそれで面白そうだが。

分泌されたアドレナリンが鎮まってゆく。もう高揚状態ではなくなってしまった。口振りは心配しているのに表情はやたらと嬉しそうな君島からやや視線をずらしB組の教室のドアを見る。
這いつくばる山本がどうにか意識を取り戻し、獄寺と君島を食い入るように見ていた。

『ライバルが一歩リード!』
「 ! 」

茶化すように言ってみれば、聞こえたのかハッとしてこちらに振り返り。歯を食いしばって睨んでくるので鼻で笑ってやった。
さて、と息を吐き出す。

『続けてぇ気もするがどうにも萎えちまったな』
「僕もだ。こんなに興を削がれたのは久しぶりだよ」
『やったじゃん!貴重な経験じゃん!』
「咬み殺すぞ」
『おっかねーww』

けらけら笑う月岡をしかめっ面で見る。この現状で楽しそうにしているのは月岡と君島だけ。女の強かさを見せつけられた気がする。約1名女と言っていいのか困るところだが。

性別も見た目も確かに女性だが如何せん中身が程遠い。しかし今さら月岡がしおらしく、女らしくなっても怖いけれど。体の具合でも悪いのかと心配されそうだ。失敬な。
ごほごほと小さく咳をして口の中に痰を戻す。べっと吐き出せば血の塊が床に落ちた。道理で口の中が痛いはずだ。そう思いながらボロボロになったシャツの袖口で口元を拭う。

もうその所作が女じゃない。嫌そうな顔をしながらも雲雀は月岡に手を差し出した。

「応接室来るんだろ。新しい制服出すよ」
『悪ぃな。助かるわ』

連れ立って歩く2人の間には年頃の男女にある異性に対する遠慮や緊張感はまるで無く。果たしてこの2人の関係を何と呼ぶのか。

友人ではない。しかしライバルと呼ぶのも違う気がする。無論恋人なんかじゃなく。けれど他人の目にはどう映るのか。憎々しげに月岡を睨み付ける君島がそれを表していた。波乱の予感に胸の高鳴りが抑えられない。



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