よく小説などの表現で“空気が変わる”なんていうものがあるが。それはその中だけの、つまりは現実ではそんな事起こる筈も分かる筈もないと思っていた。
そう、思っていた。
今の今まで巻き起こっていた騒ぎは一瞬にして静まりヒヤリとした緊張感が生まれる。先に動いたのは現れた捕食者・雲雀だった。いつから握っていたのか鈍く光るトンファーで獄寺と山本を一撃で沈め。ひっと短い悲鳴を上げる笹川と黒川を視界に捉えた。

『相っ変わらず、テメェはぼっちが好きだなぁ雲雀ぃ』
「久しぶりだね月岡。僕はそんなんじゃなくて群れるのが嫌いなだけだ」
『変わんねーっつーの』

はん、と鼻を鳴らし月岡を守るようにして立っている松浦と安達の間から割って出る。その時2人に視線を送らずに呟いた。

『緊急避難』

耳に届いた2の行動は速かった。
松浦は反対側のドアへ駆けB組の生徒に避難するよう促す。あの2人が邂逅すれば一体どうなるのか。直接見てはいなくとも月岡と雲雀という個を知っていれば自ずと答えは出る。命あってこそと言わんばかりに最低限の貴重品を持って避難を始めた。安達の姿は既にない。どこへ行ったのか。

「君は相変わらず彼らを使うのが上手いね」
『まぁな。で、テメェは朝っぱらから何の用だ』
「群れてるのが目に入ったからね。咬み殺そうと思って。…ついでにあの日の再戦と行こうじゃないか」
『そっちが本音のくせによく言うな』

転がる人や怯え動けなくなっている者を無視して月岡と雲雀は臨戦態勢に入る。体の正面を守るように、しかしいつでも攻撃に移れるようにトンファーを構え。さぁどっからでも掛かってこい。そんな姿勢に遠慮無く月岡は飛び込んだ。

握った拳を鳩尾目掛けて振る。読んでいたのかその拳を狙ってトンファーを動かした。
ドゴッ
鈍い音を立ててトンファーが月岡の腕に当たる。ミシリと骨が軋む。が押し止められる事なく勢いを殺さず。そのまま腕を振り雲雀の腹部にめり込ませた。耐えられず後ろに吹っ飛び壁に背中からぶつかる。それは中学生の喧嘩の域を遥かに越えていて。野次馬だった生徒たちは悲鳴を上げ逃げ惑う。と、そこにタイミング良く。

ピンポンパンポン

【緊急避難警報、緊急避難警報をお知らせしまぁす。ただ今2年生教室の廊下にて風紀委員長雲雀恭弥と一般生徒がガチバトルを行っております。周りの被害は甚大です。危険ですので生徒の皆さんは校庭へ避難してください。】

繰り返します… と同じ内容をもう一度放送するのは安達の声。1人教室を飛び出したかと思えば放送室に行っていたらしい。他学年に被害が及ぶかは分からんが、野次馬で来た生徒が雲雀の餌食になるとも限らない。
二次被害は出来るだけ少なくしたいのが月岡の考えだった。無論そこに他者への罪悪感やちんけな正義感なぞありはしない。彼女はただ自分が全力で楽しみたいが為に邪魔物を近付けさせたくないのだ。

『どっせえぇぇえいっ!!』
「ぐ…っ!」

教室側の壁に取り付けられた掲示板を引き剥がし空を切るように投げつける。それ自体は大したことなく、愛用のトンファーで叩き潰した。
けれどその掲示板の影に隠れるようにして月岡が迫っていて。繰り出されたローキックは見事に雲雀の右足を直撃した。重い一撃に体がフラつく。それを見逃すほど月岡は甘くない。

雲雀の胸ぐらを掴み頭突きを食らわせようとした瞬間、雲雀がカッと目を見開き逆に頭突きをしてきた。ガツン!という鈍い音が響き、ぐわんぐわんと頭の中が揺れ後ろに倒れる。蹲りなかなか立ち上がれない。それは雲雀も同じようで。

「…きみっ、石頭すぎ…!」
『テメェに言われたかねぇわあぁ…っ』

ぶつかった箇所を押さえ痛みに耐える様はなんだか少し笑える。それでもフラフラ立ち上がりトンファーと拳を構えるのだ。一体何が2人を突き動かすのか。




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