そうなるであろうと予測しての発言だ。口角が緩むのを必死に抑える。

『そもそも私は沢田が女に手を出すとは思わん』
「夏穂が嘘ついてるっつーのか」
『此方としてはそういう見解だ』

ハッキリと考えを述べれば銃口を向けられる。
スタンダードにストレートに心臓を狙うそれに益々笑みが零れた。こんなスリリングな体験そうそう出来ることではない。真っ当に生き、道を踏み外さない限りは銃なんてお目に掛かることはまず無い。先の人生何が起こるか知れないがこうして早くも銃を見、照準を合わせられるなんて月岡にとっては貴重で喜ぶべき事態だった。
ここぞとばかりに銃を凝視し記憶に刻み付ける。

「あんま舐めた態度取ってっと胸に風穴開けることになるぞ。夏穂が嘘つくわけねーだろ」
『どうだかな。思いもかけぬ人間が思わぬ事件を引き起こすのが常ってもんだ。テメーだってまさか沢田が、なんて一度は思ったろう?』
「夏穂はツナとはちげー。アイツを否定しツナの肩を持つってんなら月岡。お前も悪、制裁対象だ」
『ほー。それはそれは。なかなかに愉快な展開じゃねーの』
「な…っ」
『そんな銃一つ言葉一つで私を、私たちを脅せるとでも? ざぁんねんこちとらンなもん怖くも何ともねぇんだよ。そんな事よりも今!私たちが気になるのは沢田の心情ただ一つ!それを知る為ならマフィアだろーが何だろーが相手にしてやらぁ!』

勢いよく立ち上がりこちらを見据える瞳には確かに底知れぬ気迫と狂気が漂っていて。先にリボーンが逃げ出した。パッとその姿を消したリボーンに途端に熱が冷める。たったあれっぽっちの威圧で逃げ出すなんて。聞いていたのと随分違う。現状致し方ないとは言えつまらないのは事実だった。
表情を消したままスマホに電源を入れアドレスからカズを選び出す。躊躇わず番号をポンと押せば直ぐにコール音が鳴る。手にしていたのか1コールで出た。

【もっしーこちらカズ君でーすっ】
『こちら嵐ちゃんでーす。来たぞ例の家庭教師。詳しく話すからとりあえず合流しよーや』
【了解。じゃ今からそっち戻るわ】
『あいさー』

ピッと通話ボタンを押して切る。そうすればものの5分ほどでカズとシュウがB組の教室に戻ってきた。手には3人分のパックジュース。

「嵐ご苦労様。はいコレ」
『うぃ。』

渡されたのは抹茶オレ。月岡の周りに囲うようにして松浦と安達が座るのを当然のことと受け入れながら、まずは一口ジュースを飲む。苦くも甘い味にふぅと息を吐いた。

「それにしても予想通り、1人のところを狙ってきましたね」
『あぁ。常套手段すぎて面白味には欠けるがな。1人になってみた途端話し掛けてきたんだ。恐らく沢田を家に連れてきて間もなく、居場所は突き止めてたんだろうな』
「それを何で今になって」
『様子見してたんだろーよ。良心の呵責から一時的に手を差し伸べたのか。はたまた味方になるつもりなのか。私らは味方なんて生ぬるいもんじゃねーけどな』

そう。あえて月岡は1人になったのだ。
実を言うと松浦と安達も校舎内ではあるが1人1人バラバラに行動していて。放課後の1時間、1人で行動してみて果たしてあちら側から接触はあるのか。結果はビンゴ。3人の内のリーダー格である月岡にのみ接触があった。何もなければそれはそれで良かったが、相手側の大半はマフィア。何かあって然るべきだと。

「明日から楽しみだな、嵐」
『おうよ』

警戒に警戒を重ねろ。その分楽しみが増すのだから。

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