「お時間取らせてしまって申し訳ございません。お陰でまた一つ、進むことが出来ました。ありがとうございます」
「別にいいよ。それよりも、今日は月岡嵐は一緒じゃないの」

瞬間獣が牙を剥いた。
隠していた牙が鈍い銀色を放ち彼の両手に現れる。害のない無色透明の空気が一転、肌を刺すようなピリピリしたものへと変わる。炎に纏わり付かれているような焼けつく視線。対峙する捕食者の存在にごくりと生唾を飲み込んだ。

豪気で豪傑な彼女の部下という立場だ。何時なんどき争いに巻き込まれてもいいように武術はしっかりと身に付けている。実際それが役に立つ場面は何度もあったし、これからもあるだろうから鈍らないようにはしている。が彼を相手取って勝てるほどなのかと言われたらそうでもない。そこらの不良に負ける気はしない。しかしこの戦闘面の才に秀でた男には…。
観察眼に長けているからこそ冷静に相手との力量の差を知ることが出来、そして無理はしない。元より雲雀と戦うつもりはないが。“代わりに君が相手してくれるのかい?”と言わんばかりに見つめ… 否 睨んでくる雲雀に苦笑いしつつ両手を上げた。
降参のポーズである。

「誠に残念ながら嵐は本日カズと一緒に別行動でして。ここに来る予定はありません。あなたに会うのに複数では自殺行為ですので」
「月岡だけで来ればいいじゃないか」
「嵐とあなたを2人にしたら話なんか二の次で戦い始めるでしょう。本題に入るのが何時になるのか分からないので、今回は私が」
「……ちっ」

図星であったのか表情を顰めて小さくもハッキリとした舌打ちを。余程彼女と戦いたかったらしい。うちの上司はこういった手合いに好かれて困ると内心で呟く。さて、腹いせ八つ当たり不満解消のために軽く(ではないだろうが)咬み殺されるだろうか?
痛いのが一等好きなどという変態趣味は持ち合わせていないので御免被りたいところだが。 それを理由に嵐が特攻仕掛けても面倒だしと両手を上げたまま考えていれば真っ黒な学ランをはためかせ雲雀が踵を返す。
おや、と思えば最後に彼が一睨み。

「もう用は終わったんだよね。なら僕は帰る」
「あ、えぇ… ありがとうございました」

呆気に取られる松浦を置いてさっさと雲雀はいなくなり。生きた心地のしなかった松浦は安堵のため息を深く深く吐いた。さぁ、早く帰って彼女に報告だ。

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