「接触」骸視点

不躾に無遠慮に不作法に、テリトリーに侵入してきた女は勝者の瞳をしていた。自信に満ち揺るがない強固な芯を体の真ん中に抱えている、相手取るには厄介な人種。尚且つそれに見合うだけの能力を持っている。これを厄介と言わずしてなんと言うんでしょう。舌打ちはしない。表情を歪めることもしない。隙を見せればつけ込まれるだけだ。どうしてこんなのが素人、一般人でいられるのか。僕には到底理解出来ない。

僕だって腕に自信がない訳じゃない。
しかし推察する彼女の実力と、連れ添っている彼(は、彼女ほどでないにしてもそれなりに戦えると見えます)を考えるとお互い被害は甚大。それを予測するならば戦闘は回避したほうがいいでしょう。争いは嫌いじゃないが好きというのでもない。
避けたほうがいいのであれば避けましょう。クフフ、僕はどこぞの風紀委員長のように浅慮ではないのでね。

『此処での暮らしの中にある家電製品はなんだ?』
「家電ですか…。それぞれケータイを1台ずつ、後はガスコンロや小さい冷蔵庫、エアコンぐらいですかね」
『液晶モニターの付いた、パソコンやテレビはねーのか
「無いですね。せいぜいがケータイかゲーム機だ」
『ケータイね…。ゲームはオンラインに繋げるか?』
「いいえ。…コレで何が分かるんです?」
『さぁな。何分まだ点の状態だ。それを線で繋げられるほどじゃねーよ、まだまだ分かることは少ねぇ』

そういう奴ほど、既に何かを掴んでいるものです。
言うつもりがないのか本能で回避しているのか。聞かせれば僕が妨害してくると考えているのでしょう。
正解です。
今は被害を抑えるためにこうして質問に答えてやっていますが、僕は沢田綱吉と契約を結ぶことを諦めた訳じゃない。付け入る隙を見つけそれを逃さない為に彼女と対話をしたのだ。しかしなかなかどうして、難しい。言葉の綻びも些細な弱味も覗かせない。
計算高くそれでいて獣の本能の如き勘の鋭さ。野生の動物以上に恐ろしい相手はいないと聞きますが彼女は正にそれなのでしょう。あぁ、全く。何て面倒な相手に匿われているんですか沢田綱吉。こんな鉄壁、難易度が高すぎる。

『なるほどな。お陰で大体のことは把握できた。ありがとう』
「どういたしまして。…ところで」
『ん?』
「いい加減貴女の名前を教えてくれませんか」
『…言ってねかった?』
「はい。名字すら」
『あっはっはっ、こいつは失礼!私は月岡嵐 気軽に名字で呼んでくれ。で、こっちが』
「安達和哉でっす」

軽やかに笑い飛ばしながら自己紹介をする侵入者2人。
名は体を表すとはよく言ったものです。そして笑いながらも僕との境界線をしっかりと引く。大したものだ。普通なら「下の名前で呼んでくれて構わない」とか言うのに名字でと。違和感が拭えない。

表情も目も感情としてちゃんと笑ってはいる。だがその目の奥が怪しい。何かを企んでいるような、こちらを試しているような。
腹の探りあい。いい気分ではありませんが少し楽しいのは何故でしょう。それを誰かに言うつもりはありません。彼女に抱いた感情も感覚も。不安にさせるだけですからね。
月岡 嵐。実に興味深く、脅威的な存在でした。

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