ならばまだ知らぬ実力があるのか、はたまた自分たちは大丈夫だと根拠のない自信を持っているのか。未だ知ることは出来ない。
割れたガラス、放置されたゴミ、汚ない言葉の落書き。分かりやすいぐらいに不良の溜まり場だ。しかし、その割には不良の姿が見えない。

「沢田の話だと2階に上がれるのは1ヶ所のみ。とは言っても居住スペースが2階にあるのかどうかは不明なんだけども」
『しらみ潰しってのも面倒くせーな。いっそ火でも放ちゃ炙り出せんじゃね?』
「やり方が悪役だぞ、嵐…」
『えー』

それが一番手っ取り早いとは思うが流石に賛成出来ない。火を放てば確かに出てくるとは思うがそれ以外にも人が集まってきてしまう。そうなるのは本意ではない。
この広く鬱蒼とした敷地内だ、犯人として検挙される前に逃げおおせるのは容易。けれど事態をややこしくしかねない。さしもの月岡も冗談で言ったからか放火という手段に拘りはしなかった。キョロキョロと辺りを見渡す。

『…1階にいるな』
「そりゃまた何で」
『埃や蜘蛛の巣が少ない。人がよく行き来してる証拠だ。それに』
「それに?」
『呼吸音と心音がする。こっちだ』

先頭をきって歩き出す。
注意をして端々をよく見れば確かに廃れて久しい廃墟にしては埃が少ない。加えて天井の隅には蜘蛛の巣が張ってあるのにそれ以外にはとんと。誰かが意図的に除いたものと思われる。
感心したように安達は「なるほどー」と言いはするが最も気にすべき点を気にしない。

どこに潜んでいるか分からない人間の呼吸音と心音が聞こえるだなんて。隣にいる人間の息づかいならまだしも。だが心音は胸に耳を当てるか、聴診器が無ければ。まだ気配を察知して、と言われたほうが良いような気がした。
特別に訓練した訳でも、特殊な血筋に生まれた訳でもないのにどうして彼女はそんな事が分かるのか。それは本人にも分からない。
月岡だけでなく、安達や松浦が理解しているのはそれが月岡であるということ。答えにはなっていないがそれが全てだった。
割れたガラスに映る姿は歪んでいて。月岡の異端具合を表しているかのように見えて少しだけ、安達は目を細める。知っていることをわざわざ形にしなくてもいい。

『ここだな』
「…スタッフルーム?」
『寝床にでもしてんだろ。ちわーっス、どなたかいらっしゃいますよな!』
「決定済みなの…」

こちらに一声も掛けずそして戸惑いや躊躇もなく部屋へと続くドアを開ける月岡。それを勇ましいと取るか無謀と取るかは人次第。

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