赤ペンで採点された用紙の大半が×で埋められていた。それをご愛嬌と笑ってはくれないのが彼女だ。
馬鹿にするでも叱るでも呆れるでもなく、何も言わずにするりと話題を変えられて。何だかとっても重いものが心にのしかかった。

「(次からはもう少し頑張ろう…)」
『沢田ぁ、何ボケッとしてんだ。テメェが加わんねーと話が進まねーだろぉが』
「 ! あ、ごめんっ」

1人静かな決意をしていれば声に呼び戻される。ハッとして顔を上げれば3人共が自分を見ていて。居心地の悪さに鳩尾の辺りが痛くなった。
子どもの頃から人の視線というのは苦手だったけれど、最近はより苦手になった。理由を考える気力も湧かず、そっと目を逸らす。

「えっと、なんだっけ…」
『テメェ…』
「君島さんに夢中になってる人とそうでない人の仕分けですよ」
「あっ!うん、そうだよねっ」

ギリギリと歯軋りしそうな程に睨んでくる月岡をスルーしながらテーブルの上の紙を見れば中心に縦線が引かれ分けるように上には“死亡”“生存”の文字。皮肉が十二分に伝わってきた。

「では沢田さん、改めてよろしいですか?」
「はい、えっと確か…」

言葉尻をぼかしながら思い出すのは彼女を守るように取り囲んでいたクラスメートの顔。それはどれも歪んでいて。その中に1人笑っているのがいた。君島だ。それに気付かず自分に暴力や罵倒を繰り返すかつての友人たち。1人1人思い出しては名前を口に出してゆく。
徐々に埋められていく“死亡”欄。その大半がやはりというか当然というか、A組だった。

「こんな感じ、かな…」
『ふむ…。これに間違いは無いんだな?テメェをリンチしてくる奴の中に申し訳なさそうだったり悲しそうな面してるのは混ざってたりしねぇのか』
「最初の頃はいたけど…。1、2週間したらみんな同じ顔つきになってたかな…」
『なるほどな。他のクラスはどうだ。うちのB組の連中とか』
「すれ違い様に足かけたり舌打ちされたりはあったけどそこまで酷くはなかったかな。…あぁ、でも」
「でも?」
「オレが廊下でボコボコにされてる時とか、スゴく辛そうだったりさっき月岡さんの言ったような申し訳なさそうな表情してる人がいて…。みんながみんな君島さんに夢中ってワケじゃないんだって安心したんだ」

過去のその瞬間を思い返し、ツナは薄く笑う。それがどれほど大人びたものであったか。

皮肉なものだと月岡は思う。
自殺を考えるまでに追い詰めた事態が彼を精神的に成長させたのだ。この件が終わり、以前のようにクラスメートたちと過ごせるようになったとしても周りが子どもっぽく見えてしまうだろう。達観したと言えばそうなのだろう、けれどそれはもっと年齢が大人と呼べるようになってからで良かった。子どもが子どもらしく過ごせる日々をただ短くしてしまっただけ。己が子どもらしくあれたのは何時までだったか。

『まぁ、見ず知らずの全くの無関係の奴まで沢田を嫌ったっつーのは説明がつくっちゃつくけどな』
「つくの?」
『つくんだよコレが』
「群集心理ってやつですね。自分の意見は違うけど周りがみんな同じ意見だから自分も合わせよう。」
「一個ぐらい身に覚えあるんじゃね?自分はそうは思わないけど周りが××さんは悪い噂が絶えないから近づかないほうがいいって言うから合わせたり」
「……あるね…」

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