『どう思う?』
「どうって…」
「まぁ、異様としか言いようがないですね」
『だよなぁ』

理解出来ないとばかりに首を傾げて月岡が見つめるのは人の塊。1人の人間に寄ってたかって群がる様子はさながら糖類にたかる黒蟻。ヒドい例えかもしれないが月岡の目にはそうとしか見えなかった。
合同体育の時間を使い、さり気なくしかし抜け目なく観察していればこれだ。同じ学校内、隣のクラス。どんなに関わろうとしなくても目に入ってしまうしこうして合同で授業が行われることもある。その時も“すごいな”程度にしか思っていなかったが改めて見てみるとドン引きとしか思えない。
“あんな事”があった後なのだから気を使うように優しくなるのも分かる。それらはツナ曰わく彼女の策だそうだが。面白いのはその過保護さやツナに対する嫌悪があまり関わりのない学年・クラスにまで浸透していることだ。
これについては説明がつくから何も言わない。

「……ところで」
『なんだ』
「どうした」
「嵐はどこまで沢田さんを信じているんですか」

チラリと横目で嵐を見る松浦の瞳は探りの色をしていた。
この3人組における月岡の役割は総指揮及び一兵卒。要はリーダーであり名も無き兵でもあり。基本はリーダー、松浦と安達は部下。であるから月岡の決めたことなら反対することもなく従う。今回も例には漏れない。月岡が知りたいというのならそれが自分たちの知りたいことになる。ただツナの心情を吐かせる為に全力を尽くすのみだ。
けれど疑問は口にする。

『お前は私が元クラスメート程度で話したのも数えるぐらいしかなかった奴を信じると思ってんのか?』
「…いえ」
『ならそれが答えだ。…私は私の観察眼を信じているだけだ。最初にも言ったぞ“信用も信頼もしてねぇ”ってな』
「そういえば、そうですね」
『それを沢田が覚えてるかは分からんがな』

瞬間湧き上がる歓声。そちらへ顔を向ければ短髪の男子生徒がゴールを決めていた。ちなみ今はサッカーの試合中である。月岡たち3人の試合は次な為こうして悠々自適と談笑(と言うにはアレかもしれないが)そして観察が出来るのだ。怪しまれない程度にササッと見ればゴールを決めた生徒の周りで、他の男子生徒が妬ましげに彼を見て いや睨んでいた。特に銀髪の男子生徒は本気で殺しそうな目つきをしている。
あんなのが同じ学校にいると思うとゾッとする。

『カズ、あの銀髪と短髪は?』
「えーっと、銀髪のほうが獄寺隼人、黒短髪のほうが山本武。2人とも以前まで沢田と連んでた奴だわ」
『ふーん、アイツらがねぇ…。詳細は』
「あるよー。今見る?」
『あぁ』

差し出した手にポンと乗せられるiPhone。これが改造に改造を重ねた違法モノだとは誰も思うまい。
その画面を親指で軽く撫でればスクロールされる。現れた獄寺と山本のプライバシー皆無な情報に目を細めた。
それだけの情報を集められる安達の手腕に、ではなく内容の生々しさにだ。誕生日や身長体重など役には立たないから無視するがどんなクセがあってどんな考え方をして走り出す時の足はどちらで初の夢精は何歳の時で1日に何回トイレに行くだとかその他家庭環境まで事細かに。
1ヶ月の自慰回数だとか知っておいて何の役にそして一体どんな時に使うのか。小さく肩を竦めてiPhoneを安達に返した。

『…まぁとりあえずここ1年間の爆発騒ぎの犯人は分かったわ』
「意外と近くに犯人いたっしょ?何で1回も立件ないし補導すらないのかと考えてたらバックにマフィアが付いてたからなんだな」
「結構並盛って物騒ですね」
『あの風紀委員長様がいる時点で物騒だろ』

月岡の吐き出した言葉に尤もだとうんうんと2人は頷く。自分たちも同じ穴の狢だとは思っていないようだった。
そこで3人は言葉を切ると再び問題の女生徒と2―Aを見る。あくまで試合を見ているかのように。楽しげに会話をする姿を見る限りごく普通の女生徒だ。異様なのは彼女の周りに人が集まりすぎているということか。散ればいいものを。あれではまるで肉の壁。
試合に出ている連中も集中せずチラチラとその女生徒を気にしていて。あれでゴールを決められるのだから大したものだ。マフィアになるだけの素質は有り、ということか。

「もう少しで前半終了だけど、どうする?」
「勝ちますか」
『いや、目立つのは控えたほうがいい。点は入れず回ってきたパスを繋げる程度にしろ。取りに行くのも止めろ』
「「了解」」
『私は見学に回る。なぁに、生理だとでも言や強くは言われねーさ』

ここぞという時に女を使う辺り、月岡は本当に強かな生き物である。

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