2ヶ月程前。
並中。放課後の屋上にて。

生暖かい風。何故かひやりと肌をさする。不気味。大して変わり映えのない屋上の風景だというのに体が此処にいることを拒絶する。自然と胃液が逆流してきて喉を痛めつけた。
これも超直感が告げているのだろうか。危険だと。
目の前で対峙している少女が、この状況が。聞こえない警報が脳内で鳴り響く。

ごくり。生唾を飲み込む。
先に口火を切ったのはツナだった。

「話って何? 君島さん」
「やだなぁツナったら。わたしの事は夏穂って呼んでって言ってるのに〜」
「あ、うん…。それで話って、」
「せっかちだなぁ。まぁいっか」

決して地毛とは思えない、しかしとても丁寧に染め上げられ緩くウェーブの掛かった髪をくるりと指に絡ませて夏穂は言う。
たった一言。
何でもないことのように、ごく当たり前に。

「ボンゴレ私に頂戴」
「…え?」

意味が分からなかった。
実に簡潔に用件を告げられはしたがどういうつもりで、何の意味があってそんな事を言ってくるのか理解出来ない。
いや、そもそもどうしてなんでボンゴレを知っている。あれはマフィアで自分は不本意ながらその次代ボス候補。そんな事実一般人が知りよう筈もないのに。その機密事項を知っている、ということは。

「もしかして、君島さんもマフィアなの…!?」
「それはお答えしかねるなぁ。…で、くれるのくれないの?」
「…っ、そんな、何者かもよく分からない人に…!」

寄越せと言われて簡単にあげられるものじゃない。
まして以前はボンゴレ10代目ボスの座を賭けて大掛かりな戦い―… それこそ死闘と呼ぶに相応しい事態が起きているのだ。意地でもその座を死守したいというワケでも、寧ろ代わってくれるなら渡したい気持ちでいっぱいだがその時のことを思い出すとこんな不振人物に渡す気にはならなかった。
それ以前に血縁者でもない人間が、ボンゴレボスになどなれはしないのだが。
ギリ、と手を握り締めてツナにしては珍しく人を睨みつけるという行動を取る。それが気に食わないと言わんばかりに目の前に立つ女生徒― つい2週間ほど前同じクラスに転入してきた君島夏穂は表情を歪めた。

「なんなのその顔。生意気よダメツナのクセに!!」
「っ!」
「わたしのお願い無碍にしただけでなくそんな風に睨むなんて…!いいよ、身の程っていうのを教えてあげるっ!!」

怒りに顔を染める姿からは普段の容姿端麗さを伺い知ることは出来なかった。まだ同じクラスになって短いがその間このような表情も感情も見たことがない。いや、もちろん怒ったりしているのは見てはいるがこんな…。
あまりのことに戸惑い動けないでいるツナを置き去りに君島は自分のシャツを思い切り引き裂いた。

「な…っ!」
「きゃぁああぁああぁあ!!!」

避けるワイシャツ、飛び散るボタン。耳をつんざく甲高い悲鳴。全てが理解不能で、でもこの先の展開を想像出来て。いや、幾ら何でも転入してきてたったの2週間やそこらの人間をそう信じはしないだろう。
大丈夫、大丈夫。
そうは思っていても心臓はやたら激しく動き、気持ちがこれ以上なくハラハラと焦る。大丈夫。クラスメートが信じてくれなくても苦楽を共にしたあの2人なら―…

悲しいかな、ツナのその想いは裏切られることとなる。そして生き地獄の幕開け。
以上、沢田綱吉による事の発端口頭弁論一部抜粋。

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