無造作に脱ぎ捨てられた衣服、そして下着。
同じような構図を3日間も続けて見ていれば、生まれる感情はたった一つ。呆れだった。小さくため息を吐くとそれを拾い上げ洗濯機へ放り込む。下着はきちんとネットに入れて。

ツナが月岡宅で過ごすようになってから早3日。その間毎日こうして月岡が脱ぎ散らかした下着やらを拝んでいた。もちろん最初の2日は驚き、怒りと照れをない交ぜにしながら月岡本人に抗議していたが…。言えばその場で片付ける。だが継続して綺麗にしてはくれず、毎日こうして散らかるのだ。
普段の才覚溢れる様子からは考えられなかった。一人暮らしというのもあるししっかりしているものとばかり…。初日、松浦が帰り際「嵐をお願いします」と肩を掴んで熱心に言ってきた意味が分かってしまった。

「月岡さん、せめて下着を洗濯機に入れるぐらいはしようよ…」
『えー、めんどい』
「あとほんの少しなんだよ!?脱衣所で脱ぎ散らかしたままにしないでちょっと頑張って洗濯機に放り投げてくれればそれでいいのに!」
『沢田小姑みたい』
「こ…っ 誰のせいだと思ってるの!?」
『テメェの性格のせいだろ』

正にああ言えばこう言う、だった。
キャンキャン子犬のように喚いて小言(大言とも言える)を口にするツナを実に軽くあしらう。そんな彼女はよれよれのTシャツに短パン姿。せっかくの素材を台無しにするような格好だ、松浦が見たら嘆くかはたまた怒るか…。
会話の最中ずっと月岡が目線を送り続けている白い用紙をギッと睨む。此方へ集中させる為に一度取り上げてしまおうかと思ったがそれをよくよく見て考えが止まった。

「見取り図…?」
『ああ、並中のな。作戦に使えるかもしれねぇからな一応頭に叩き込んでる。…で、不可解な点があんだけどよ』
「何?」
『校舎。何ヶ所か改築… っつーよりは改造されてんだよ。何か知らねーか』

ここ、と言いつつ指先で叩くのは2年生クラスのある廊下に設置されている火災警報機。見取り図を端から端まで見れば点々と赤い丸が付いていて。恐らくはここが火災警報機で尚且つ不可解な所のある箇所なんだろう。心当たりがありすぎてげんなりとした。月岡も、ツナならば何か知っているに違いないと考え聞いてきたのだろう。悲しいかなそれは当たりで。
ううん、と小さく呻いて首を縦に振った。

「知ってる。…この間言った、オレの家庭教師の仕業なんだ」
『赤ん坊の凄腕ヒットマンてヤツか。よくあの風紀委員長さまが黙認してるもんだ』
「あー… なんか、雲雀さんリボーンのこと気に入ってるらしくて…」
『それで大好きな並中改造されても黙ってるってか?ホントかよ…』

信じられないという表情で見取り図を眺めながら、ガリガリと乱雑に頭を掻く。松浦が見たら窘めそうな場面だ。

―結局あの後、洗いざらい話させられた。
月岡がテンション上げまくりで迫ってきたのにビビって、というのもあるが何となくこの3人ならどんな苦境に陥っても這い上がれるような気がしたからだ。それにその状況すらも楽しみそうだしと。

案の定話し終えた後の3人は大変ワクワクとしていて。その筆頭が当然ながら月岡、次点に安達というのが少し意外だった。
どちらにせよ普通の中学生なら怯え怯むところを逆に喜び楽しむのだ。普通ではないと思っていい。まぁ全校レベルで嫌われている自分に声を掛け手を差し伸べてくるのだ。その時点で普通ではないだろう。

『…とりあえずはこの辺にして飯にすっか。何がいい?』
「あ、別に何でもいいよ」
『それが一番困るんだよなぁ』
「えー…。じゃあ、肉じゃがとか」
『肉じゃがね。材料あったっけ』

粗雑で乱暴な振る舞いと性格の持ち主な月岡だがその才能は実にマルチだった。普段は主に松浦が、そしてたまに安達が世話を焼いているがその気になれば1人で何でもこなせる。
共同生活を送るようになってからというもののそれを肌で感じる事が多々あり。こうして月岡が食事当番なのも頷けた。出来るのなら最初からやればいいのにと言ってみれば真顔で『汚くても死ぬワケじゃねーし』と返された時には涙が出そうになった。
情けない話だが、1人… いや2人暮らしを始め家事をやるようになってから身の回りの世話をしてくれる親の存在がどれだけ有り難いかよーく分かった。今はまだ戻るつもりはないが、いつか家に帰るその日が来たときはもう少し家の手伝いをしようと思う。
その日が来ればの話だが。

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