靴下越しに触れたフローリングはひんやりとしていた。けれど内装は暖色系で纏められていて。暖かな印象を覚える。

『っつーことで沢田、テメェはしばらくここで私と一緒に暮らしてもらう。襲っちゃやーよ☆』
「いいですか、襲われそうになったら全力で大きな声を上げて人に助けを求めるんですよ」
「敵は強大だ、いざとなったら決死の覚悟で挑め!」
「アドバイスが真逆!」
『この野郎おぉぉ』

珍しく月岡がウインクという女の子らしい振る舞いをしたのにそれを総無視する。それどころか松浦も安達もツナが襲われる心配をして。女としての稔侍に関わるんじゃないかとも思うが彼女の性格を考慮すると無くもないかも、と考えてしまった。
いやいやいや、それよりもまず気にしなければならない事があるだろう。ハッとして声を上げる。

「いやそもそも一緒に暮らすってどーゆー事!?」
『だってここ私ん家だし』
「表札で気付かなかった?」

言われてはたと気付く。そう言えば何かローマ字で書かれていたような…。色々といっぱいいっぱいだった為それが何と書いてあるかまでは把握出来なくて。
まさかそこに月岡と記されていようとは。
いや、誰の家か分かっても普通女子の家に泊まらせて貰うことになるなんて思わないだろう。間違いは起こらないと思うが自分たちは絶賛思春期真っ只中。その場の勢いとか若さで仕出かすかもしれない。

「だっ、だだだダメだよそんな!女の子の家に泊まらせてもらうなんて!だ、大体ご両親が黙って―」
『いねーよ』
「え?」
『親はおらん。家ん中見りゃ家族向けの家具や間取りじゃねぇことぐらい分かんだろ』

ファミリー層向けではない、そう大きくないテレビ。大して汚れていないソファ。傷の少ないテーブル。棚に収まっている食器はそれなりだが、何となくこれは松浦や安達が使っているんじゃないかと考え至る。
もしかしなくとも自分はとても失礼な事を言ったんじゃないか。たった半日しか共にしていない奴が何てことを―

『ま、親がいたらこんな人間には育ってないだろ。子が真っ当に育つ第一条件はまず親がいることだからな』「いたらこんな口悪くないだろうしなー」
「確かに」

それにはほとほと苦労させられてきたのか目頭を手で抑える松浦。それを見て嵐は苦虫を噛み潰したような表情をして。相当言葉遣いに対して言われているらしい。
どうしていないのか、どうやって生活しているのか、自分がいても迷惑にならないのか。聞きたいことは沢山あるけれど聞かないほうが良いのだろうとも思う。相手の懐に入り込もうと考えるほど度胸があるワケでも図々しくもなかった。小さく一度頷く。

「えっと、じゃあ… しばらくお世話になります」
『おう』

腰を折って頭を下げれば自分のボロボロになった制服や包帯やガーゼだらけの腕が目に入る。思えばこんな状況になってからまともに治療したのはこれが初めてのことだった。
どんなに怪我をしても服が破れても汚されても。治療も何もなく。誰もが見てみぬフリ。何人かは申し訳なさそうにこちらを見てはいたが、やはり己の身が可愛いのだろう。手を伸ばされることはなかった。それもしょうがないとは思うけれど、こちらの身としては助けてほしい気持ちでいっぱいで。
そんな中、周りを気にもせず自分たちのしたいことの為だけに己に接触してきた彼らはいっそ清々しくもあった。裏を見せての行動。こんなにも堂々とした人達が近くにいたなんて。

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