「これでいいかな…」
『そうだな。あ、勉強道具は持ってけよ?』
「うん」

ズタボロすぎて見れるものじゃないけれど、無いよりはマシだろう。同様にズタボロのスクールバッグに教科書類を全て押し込んで立ち上がる。
服の入ったスポーツバッグを月岡が手に取った。

『へいカズ、パース!』
「おう!」
「え!?い、いいよ自分で持つよ!」
「気にしない気にしない。そっちだって重いんだから」
『そうだぞー、それに利き腕捻ってんだし』
「そう、だけど…」
『今は甘えとけ。そのうち私たちはお前の言いたくもない心情を暴露させるんだ』
「…………。」

最も嫌な、トラウマを呼び起こすその行為行動。
それを聞いて理解した上で協力ね手を取ったのだから、文句は言うまい。
その瞬間瞬間を思い出すのはもちろん辛い。けれどそれはいつか乗り越えなければならないもので。包帯だらけの手をぎゅっと固く握った。

「…じゃあ、そうする」
『ああ』

その答えに満足したかのように笑うと安達を先頭に一列になって階段を降りてゆく。
ふとその時松浦は何をしているのだろうと思い出す。ついさっきのやり取りからして彼が奈々をどうにかするという感じが見て取れたが…。暴力に訴えるような人ではないと思うが、何をしているのか。
この期に及んで親の心配をしている自分がいて少し驚いた。一段一段降りるごとに下から聞こえる声がハッキリしてくる。

「いや実にお若くていらっしゃる。それに美しい。さぞおモテになるのでしょう?」
「まぁ、口が上手いのねあなた」
「何を仰います。私は私が感じたことを述べているだけですよ」
「うふふ、嬉しいわ」

聞こえてくる会話に思わず え と声を漏らさそうになる。覗き込むようにして顔を出してみれば松浦が奈々の手を取り全力で褒めちぎっていた。いや、これはもう口説いているといっても過言ではない。
手に手を取って話している姿を見ていると本当に自分と同い年なのかどうかと疑ってしまう。
チラリと月岡に視線を送ると気付いた彼女が肩を竦めた。

『シュウ、もういいぞ』
「了解」

一声掛ければ奈々に向かって一度お辞儀をするとスッと此方へ。足並み揃えて靴を履き、ドアを開けた。

『おじゃーしゃーっした』

こんなにも堂々とした家出があるだろうか。

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