その眼差しは、親が子に向けるにしては余りにも冷たすぎるもので。思わず身が竦む。

「…なに、ツナったらもう帰ってきたの?人を傷つける最低な人間なだけあるわね。学費の無駄使いだなんて」
「…っ」
「ああホント、なんであなたなんて産んだのかしら」

実母から投げられる言葉に心臓が抉られるように痛む。今すぐここから逃げ出してしまいたい気持ちでいっぱいになる。目の前がぐにゃぐにゃと歪み、全身から汗が噴き出してきた。身体に直接与えられる痛みよりも、心に与えられる痛みのほうが何倍も苦しい。身体の傷はいつか癒えてなくなっても心は治ってくれない。きっと、母のこの瞳は一生忘れられないだろう。
ぐらりと体が倒れそうになる。だけどその瞬間助けてくれたのはやはり彼女だった。

『沢田ーぁ、お前の部屋って2階?』
「えっ!あ、う、うん…」
『よし了解。んじゃ、おじゃーしゃーすっ』
「へっ!?」

言うが早いかツナの腕を掴むと靴を脱いで家の中へと上がり込んでしまう。流石に土足はダメだとツナも慌てて靴を脱いで上がる。追うようにして安達も付いてきた。階段を一段、月岡が登る。

『シュウ、後は任せる』
「はい、お任せを」

振り向きもせずに一言。見ていないと分かっていながらも松浦は腰を折った。まるで上司と部下のような信頼関係が見えて、ツナは目を白黒させる。この2人には、いや3人には一体何があるというのか。
2人の信頼関係、そしてそれを日常の光景のように見ている安達。恐らく月岡と松浦だけでなく、安達ともこの見えない信頼関係があるのだろう。少し羨ましくなった。
ガチャッ

『ふーん、ここが沢田の部屋かー。雑然としてるな』
「ご、ごめん…」
『構いやしねーよ。どうせ掃除する暇がないほど追い込まれてたんだろ』

ズバリ言われた言葉に胸が締め付けられる。全く以てその通りだった。

『カズ、写真』
「あいよ」
「写真…?なんで?」
「一応証拠写真というか参考資料?」
『親からも理不尽な虐待受けてましたっつーのを裁判所や児童相談所に資料として提出するかもだからな。そういうのは多いほうがいい』
「 え 」

開いた口が塞がらないという状況をこの時ツナは初めて体験した。
今まで驚愕の出来事は数多くあれど呆然とするより先に声が出ていて。けれど、これは。改めて自分の置かれている状況を直視してくらりと目眩がした。
しかし彼女たちの手を取った以上逃げる事は出来ないのだ。頭を振って目眩を払う。
自分を信じてくれない親などこっちから願い下げだ。それぐらいの気持ちで挑まないとこの悪夢のような現実は終わらない。

「んー こんなもんかな」
『だな。それは後で現像するとして。沢田、もう荷造りしていいぞ』
「わ、分かった」

デジカメ片手に戻ってくる安達と入れ代わるように室内に入り、押し入れから大きめのスポーツバッグを引っ張り出す。その中に5日間分の着替えを詰め込んでゆく。
とりあえず一時的にではあるがこの家を出るのだ。
ずっとここにいては傷は癒えないし、作戦会議もままならない。戻ることがあるかどうかは全てが終わった時に決めればいいと言ってくれた。
しかも足りない物があれば『私が買ってやる』とまで言われ。それは申し訳なさすぎると言いはしたが『気にするな、これは私たちからの迷惑料だと思え』『どうしても返したいってんなら…そうだな、出世したらでいいさ』と。
男前すぎて惚れるところだった。

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