物珍しいワケでもないありきたりな住宅街。4人はその中の一件の家の前に立っていた。
表札には“沢田”の文字。

『よっしゃ行くぞオラァアア!!』
「ねぇホントに荷物取りに来ただけだよね!?特攻仕掛けるんじゃないよね!?」
『当たり前だろ、このテンションを見て分からんのか』
「どっちかってーとカチコミに行くテンションだよそれ」

こっそりどころか堂々と学校をサボり今はツナの家の前。今にも大暴れしそうな月岡にたじたじヒヤヒヤしてしまう。
流石にいきなり人に手を上げるような人では… ない、と思うがどうか分からない。自分を挟むようにして立っている松浦と安達もやれやれと苦笑するばかりで。言い知れない不安に駆り立てられた。

ステップ1 家出

またの名を自立というが、手っ取り早く言えば食事や手当てつまりは親としての義務を放棄した母の元から離れようとのこと。これにはツナも賛成だった。学校でも心身共にボロボロにされ、安らげる筈の家でも似たような有り様。実の親から及ばされる被害なだけあってその影響は大きかった。
自殺を考え始めたのも母が切っ掛けなだけに家を見上げる瞳は暗い。入るのが、怖い。
バシンッ

「いっ!!?」

唐突に広がる背中の痛み。声を上げ痛みと勢いに耐えきれず一歩前によろめく。涙目で後ろを見れば叩いた状態のまま手を上げた松浦と安達がいた。とってもイイ笑顔付きで。何をするんだと抗議の声を口にするより先に影が差す。

『どうだ沢田。思ったより一歩を踏み出すのは簡単だろう?』
「あ…」

振り返れば一歩後ろに自分を挟んで立っていた2人。足元は家の敷居目前にまで来ていた。
あんなに恐ろしく、足が重かったというのに。人に背を押されてではあるがこんなにも呆気なく踏み出すことが出来るのか。ちろりと月岡を見上げればニッと笑った。

『さぁサクサク行くぞ!ホラ沢田早くしろっ』
「あ、う、うんっ!」

急かされるように、しかししっかりと自分の意志で門柱を超える。我が家だというのにいつも感じていた緊張はまるでない。心臓はどくどくと早鐘を打っているがこれはどういった理由でなのか、ツナ本人にも分からなかった。
ほんの数歩で玄関扉の前に着く。 何の変哲もないドアだというのに何故か高々と聳える山のような圧迫感を感じた。拳を握り締める。

「はい深呼吸!吸って!」
「すぅーっ」
「吐いてー」
「はぁー…」
『よっしゃ行け!』
「ただいまーっ!」

ガチャッ
自宅に入るにしてはやたら工程を踏まえて、ツナは久しぶりに大きな声を出して帰宅した。まだ他の生徒は授業中であるからこの帰宅は決して誉められたものではないけれど。ツナは自分の行動を誉めてやりたかった。
いつも通りの玄関、下駄箱。並べられた靴を見て、母が在宅中であることを知る。胃がキリリと痛む。

『ほー、ここが沢田ん家か。普通の家だな』
「見本になるぐらい普通ですね」
「普通すぎて逆に新しい」
「普通普通言わないで!」

わらわらとツナの背後から顔を出す3人。人を押し潰すようにして家の中を覗いたかと思えば何とも言えない感想を次々と口にする。悪く言われるよりマシかもしれないが、そう何度も普通と言われるのも…。
やや疲れながらも突っ込んでいればガチャリとドアの開く音。ハッとして顔をそちらに向ければツナの母親である奈々が立っていた。

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