*


ふ、と意識を沈め再び浮上させる。
閉じていた瞼を重たげにゆっくりと開ければ、飛び込んできた世界のあまりの美しさに息を飲んだ。
青々と覆い茂る極彩色の草原。
紺色に染まる夜空には太陽系の惑星や輝く星々。
草原は風が吹くたびに七色の波を作り、夜空に浮かぶ惑星は有り得ないほど近くになあって。それこそ、手を伸ばせば届くんじゃないかと思ってしまいそうなほど。その何とも幻想的な世界に、思わず溜め息を吐いた。こんな美しい精神世界、見たことがない。

「美しい…」
『そりゃどーも』

呟いた独り言によもやの返事。けれども焦ることも驚くこともなく独特な笑い声を発しながら振り向いた。薄暗い夜闇の中、長い藍色の髪が極彩色の草原に照らされる。

「クフフ、早いお出ましですね」
『鈍いワケでもないんでね。それで何の用? わざわざ人の精神世界くんだりまで来るんだ。大層な用向きなんでしょーね?』
「クフフ…」

笑い声が風に乗り鼓膜に届く。
風が吹き、葉が擦れ合う音のほうがそれよりも大きいというのに何故かやたらとはっきりと聞こえ。ここが夢の、精神世界という特殊な場だからだろうか。こんなところでも、彼女は変わらず煙管を手にしていて。すぅ… と煙りを吐き出せば風に流されることなくそこに留まっていた。

「話に聞きましてね。随分と有能な占い師がいると」
『へぇ』
「占い師としてももちろんですが、それ以外の方面でも有能だそうですね」
『…何が言いたいんかハッキリしろし』

遠回しに言われ、微かに表情を歪める。
回りくどく言うぐらいなら多少傷つく内容でもハッキリ言われたほうがいい。…いや、傷つくなんてことはないだろう。彼女のことだ、きっとこの日己の精神世界に侵入者が入り何を言ってくるかなんてことも視えていたのだろう。
睨むように見つめてくる彼女にまた笑い声を漏らすと口を開く。藍色の髪が草原と同じく極彩色に彩られていた。

「では単刀直入に聞きましょう。…あなたは何者なんですか?」
『何者、ねぇ…』
「先を見通しすぎる力、それだけでも警戒対象として充分なのに獄寺隼人が陥った不可解な状態を回復させた…。占い師の範疇を越えていると自分でも思いませんか?」
『いんや』
「…過ぎる力を持つ者は脅威でしかない。脅威となる者は消すに限ります。…が、僕は君の力が惜しい。亡くすには勿体無い」
『人の体乗っ取って復讐とかマジ無いわー』
「…僕のことも視えますか」

消すだのなんだの、物騒極まりない発言を目の前でされているのに動揺することなく佇む。それどころか男の心うちを見透かし引く素振りを見せる。左右非対称の瞳が細められた。彼女が口にした言葉を聞いたからかそれとも最初からそうするつもりだったのか。男の手に黒い靄が集まり、形を成していく。
数瞬のうちにそれは三叉槍と成り。夜空に浮かぶ月の光を浴びて、怪しい輝きを放った。

「やはり僕は君の力が欲しい。その先見の力と魔を祓う力があればマフィア壊滅も『さっきの質問の答えだけど』

不敵に笑い、今にも槍を振りかざさんばかりの危うさを見せる男に構うことなく至って普通に煙管から煙を吸い上げる。吐き出した煙は今度は留まることなく、風に流された。

『私はただの占星術師さ。出来ることがそこいらの占い師よか多いだけのね』
「…………。」
『さ、質問には答えたんだからそろそろ帰ってもらおうかんね』
「 ! な…っ」

そう彼女が口にした途端、男が手にしたばかりの三叉槍が靄に戻り散る。それだけでも驚きなのに次いで体が透け始め。在るべき足はなくなり、その先の青々とした草が見えた。早々簡単にはやられない。焦りもすぐに引き、ここに留まり彼女に攻撃を食らわせるべく赤色をした右目に力を集中させる。
けれど、変化は起こらない。

「バカな…!」
『入ることは許したけど、好き勝手するんは許さんさ。ここは私の世界なんだから私が一番強いんは当然っしょ?』
「君は、術士なんですか…っ」
『だぁら、占星術師っつったろーが。…じゃあね幻惑、いや眩惑でもいいかな。眩惑のお兄さん』
「……骸です。僕は六道骸、あなたの名前を伺っても?」
『私は――…』

彼女が名前を告げる前に、男・六道骸は夜空に溶けるようにして消え。後には1人、女が極彩色の草原に立っているだけとなった。

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