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それから数日もしないで、彼女が見事言い当てた通り山本は任務へと行った。
場所はロシア。極寒の地。
雪の吹きすさぶこの地で、とある中小マフィアを壊滅させることが山本の今回の任務だ。口にはしなかったけれど、どういう内容の仕事なのかも彼女は視えていたのだろう。
ツナや山本の抱えているものをいとも簡単に見透かし、あまつさえ獄寺のあの不可解な症状を直した力。素直に凄いとは思うが、それがいつしか脅威になるのではないかとじわりと思う。幸いなのは視えた内容を大まかにしか言わないところ。空気を読んだのか、言わないほうが保身になると考えたのか…。どちらにしろ、世渡りは上手いようだ。

「(名前すら知らねーけど腕は確かみたいだしなー。だから、あの助言がスゲー気になんだよな…。“じゅうおん”…。じゅうおんってなんだ?重恩?なワケないか)」

与えられた意味不明な助言。
それを頭の中で幾度か復唱するが、その言葉に当てはまるモノを思いつくことが出来ない。自身の偏差値の低さか何なのか。獄寺やリボーンならば思いつくことが出来るのだろうかと考え、苦笑いを零す。 彼女に聞いても『運命を曲げることは出来ない。それはお兄さん本人にしかね。死にたくなかったら頑張りんさい』と言われてしまい。確かに、己の運命を他人に預けるのは癪だ。預けてしまって取り返しのつかないことになってしまったらたまったもんじゃない。後悔してしまうのなら自分で動かしてやる。そう意気込み、刀の柄を握る手に力を込め向かってくる敵を迷いなく斬り捨てた。

「(今んとこ、ピンチっつーピンチは無ぇけど…。)」

何ら問題なく進む任務に、彼女の言葉は杞憂だったかと思い始める。大層腕の立つ占い師ではあるが、所詮は占い。外れることもあるか。
何となく期待はずれな感じに少しばかりガッカリとしながらも、建物の廊下を走り曲がり角を曲がる。その瞬間廊下の真ん中で機関銃を構える数人の敵が目に入った。すぐさま後ろへ跳び、角へ身を潜める。容赦なく飛び交う銃弾に冷や汗が溢れた。

「あっぶねー…」

ふぅ、と息を吐きながら未だ鳴り止まない銃弾を横目に懐から匣を取り出し指に嵌めた雨のボンゴレリングに炎を灯す。慣れた手つきで、リングを匣に挿した。瞬間飛び出す小さな燕。山本と同じ色の炎を身にまとい、くるくると彼の周りを旋回する。慣れ親しんだ相棒に笑みを零すと、目つきを厳しいものに変え角の先を見据えた。

「行くぜ小次郎…」

タイミングを見計らい、小次郎と呼ばれた雨燕を先頭に突っ込む体制を整える。カウントダウンを開始する。
5 4 3 2 1…
いざ飛び出そうとした瞬間、何か小さな物音が耳に届いた。飛び出すのを止め、その音に耳を傾ける。けれど止まない銃撃音のせいでよく聞き取れない。集中し、僅かにしか聞こえないその音を聞き取る。
刹那。
本当にその刹那、雷属性の炎が山本目掛けて放たれ。それよりも若干速く、小十朗により防御を展開し。どうにか怪我を負うことはなかった。自分を守るように広がる雨属性の炎越しに背後を見れば、雷の炎を纏った武器を構える男。戸惑いも一瞬。すぐにその男を切り捨てた。

「…まさか、今のが」

倒れ、死へと向かっていく男を見ながらあの占い師の言葉が脳裏を駆け巡る。

『重音に気をつけろ』

あぁ、これかこれなのか。
止まない銃撃音に被せて、背後から攻撃してくると。油断していたのだろうか、ギリギリになるまで気付かなかった。彼女の言葉が無ければその事柄を気にめ留めなかっただろう。そして自分はここで死んでいた。間違いなく。まともに匣兵器も集められないマフィアと侮っていたのもあるだろう。持っている訳がないと。命を落としかねない先入観。
自分の失態に舌打ちを一つする。
でもそれよりも、日本のアジトに戻ったら彼女に礼を言わなくては。土産は実家の寿司でもいいだろうか。
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