*


片手にケーキの入った箱をぶら下げて、地下へ続く階段を下りる。何ら変哲のないその行為だけど、どこか不思議な感覚を覚えた。この身が既に裏社会という名の地下世界に置かれているからか、地下に足を踏み入れるというのが。この先は一切… とは言い難いかもしれないが、自分たちの世界とは疎遠な場所なハズなのに。
浮かぶ感覚を、頭を振って拭った。

「お、ここか。ツナや獄寺が言ってた占い師の店ってのは」
「うん。随分お世話になったよ」
「みたいだな。獄寺のやつ、目に輝きが戻ったっつーか」

律儀にも、ツナはまた客を連れてきて。それがこの男・山本武だった。中学時代からの旧友。占いには興味は無いと言っていた彼だが、これまでの経緯を話すと途端興味を持ち。前回同様ケーキ片手に共に来店した次第。
少し錆びて塗装の剥げた扉。それが逆に雰囲気を醸し出していた。鈍く光る銀色のドアノブに手を伸ばす。
ガチャッ
触れるより早く扉が開いた。開くと同時に鼻を掠める煙草の香り。

『いらっしゃいお兄さん』
「こんにちは。今日来るのも、分かってたの?」
『まぁね。何分占い師ですから』

最早その手にあることが当たり前となった煙管を口に銜えると、ツナの後ろに立っている山本を覗き。年齢の割にはとてもニヒルに笑った。初めて会った人間にそのような笑みを向けられ、僅かばかりたじろぐ。占い師とは皆こんな感じなんだろうかと思う

『そのお兄さんが今回のお客さんだね。さ、どうぞ中に入りんさい』
「あ、あぁ…」
「お邪魔します。…そうだ、ハイこれお土産ね」
『 ! やったケーキ?マジ嬉しいよお兄さんっ』

持ってきていたケーキの白い箱。見た目でケーキと分かるや否や声を弾ませてそれを手に取り笑顔を見せ。この間もそうだけれど、どうしてかツナはこの笑顔を見るとドキリとする。訳の分からない、いや、過去に何度か経験したことのある感覚に そんなワケない と頭を振った。

『ここに座って』
「おう」

1人ツナが悶々としているうちに、気が付けば山本と彼女が店の真ん中に張られたテントのところへと歩みを進めていた。促されるままに布を一枚敷かれた床へと胡座をかき、目の前に同じように座った女を見つめ。 その視線に気付いているのかいないのか手にしていた煙管を傍らの灰皿に乗せると、肺に溜まっていた紫煙を一息にに吐き出した。

『じゃあお兄さん、このカード適当に切って。で、出来たら頂戴』
「分かった」

本格的な占いな生まれて初めて。俄かに占いなど信じてはいないが、己がボスであるツナとその家庭教師それどころかあの獄寺ですら彼女の実力を認めているのだ。どのような結果であれ、信じずにはいられない。不吉な内容でなければ、いいのだが。

指示された通り、タロットカードを適当に切りそれを占い師へと返せば慣れた手つきで2人の間に円を描くように並べ。山本に一言も掛けることなくそれを一枚一枚捲る。

『…お兄さん運動神経いいんだね。特に球技… 野球かな。』
「お、よく分かったな!」
『これが生業ですから。…でも職業は後ろの茶髪のお兄さんと同じか…。どっちも大事だから割り切れない、ね…。困ったね、なまじ才能があるから余計に選択しにくい。』
「…そうだな。みんなといるのは好きなんだけど、野球も捨てられねーんだ」
『うん、これに関しては他人がどうこう口出しすることじゃないかんね。……それよりも、』
「?」
『お兄さん、今度遠くに仕事に行くね。随分と寒くて物騒なところに』
「!」

この言葉に驚いたのか、山本はパッと後ろに控えているツナへと振り向く。一瞬のアイコンタクト。だがその一瞬で互いに意志を交わしあい。言ったのか、いいや言ってない。そうだ言うはずがない。幾ら占い師としての能力を遥かに上回っていてこうして交流していても相手は一般人。
任務という重要な事実をひけらかす訳もない。分かってしまうのだと、思い知る。

『仕事内容はまぁどうでもいいって言うか、つつがなく進むよ。けど、気ぃ付けんさい。なんか嫌なもんが見える』
「嫌なもん?」
『ハッキリとは言えない。あまり運命を弄くるのはよろしくないかんね。…一つだけ、助言しとく』
『じゅうおんに気を付けろ』
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