*


コツコツと数人分の足音がする。
地下という造りからか、やけにそれが響いて聞こえた。それが耳に届くとピクリと指が反応して。床に下ろしていた腰を上げ、のらりくらりと歩いて外へと続く客専用の出入口へと向かう。外にいる人物がノックをしようと手を上げた瞬間、それよりも早く扉が開き。僅かに目を見開けば、見知った顔が出迎えた。

『いらっしゃいお兄さん。ホントにまた来たねぇ』
「うん、お礼にね」

ニッコリと笑って、軽く後ろを見るように促す。それに従い、ツナの体から身を乗り出すようにして後ろを見てみれば男が2人。黒いスーツに黒い帽子の男に銀髪の煙草を啣えた男。折しも彼女自身も煙管を吸っている最中だった為、僅かに親近感が湧く。けれどそれも一瞬。視線をツナに戻すとニッと笑った。

『なかなかアクの強いの連れてきたねお兄さん。占い甲斐があるよ』
「…分かるんだ?」
『こちとら占い師ですから。さ、どうぞ入りんさい。後ろのお兄さんらもね』

吸い込んだ煙を吐き出しながら、手に持ち替えた煙管で店内へと促す。先導するように先に行こうとすれば、ツナが待ったの声をかけた。

「あ、待って!今日はコレ持ってきたんだ」
『うぇ?』
「ケーキなんだけど…。やっぱり何かお礼として形になったものを渡したくてね」

几帳面というか律儀というか…。困ったように笑いながらツナが差し出してきたのは真っ白い箱。
見た目でケーキが入っていると丸分かりなそれをすんなりと受け取ると、彼女は今まで見たことがないくらい ぱぁあ と表情を明るくさせた。予想を超える反応にドキリとする、

『マジっすかお兄さん!私ケーキとか甘いもの大好きなんだよね!遠慮なく貰っちゃうよ?』
「うん、どうぞ」
『やった!ありがとお兄さん大好き愛してるっ』
「!!!」

何とも大胆な発言を大声に乗せて言う。その場の勢いの、決して感情が伴っている言葉じゃないハズなのに年甲斐もなくツナは頬を赤くして。しかし残念ながら彼女はそれに気付かず。
ナが一人内心わたわちと慌てていれば、後ろの黒い影が揺れる。ごく自然な動作で彼女は後ろへ下がり。その瞬間、鈍い音と共にツナが前へと倒れた。

「あだっ!」
「いつまでも入口でいちゃついてんじゃねーぞダメツナ。さっさと中入れ」
「じゅ、10代目大丈夫ですか!?」
『あっちゃ、お兄さん大丈夫ー? また見事に顔からいったなぁ』

口ぶりも表情も大して心配しておらず、それでも一応としゃがめばパチリとツナを心配していた銀髪の男・獄寺と目が合う。その瞬間強く睨みつけられた。

『いやだな銀髪のお兄さん、そんなに睨まないでよ。いくら私が言わなきゃあの女の人は追い出されなかったって言ってもさー』
「 ! 」
『まぁ、きっかけになったのは間違いないけども』

困っているのかは分かりかねるが、眉を下げて笑うとそんな事を口にして。その言葉は図星だったのか、獄寺はぎょっとして少しばかり身を引いた。
構わず彼女は続ける。

『銀髪のお兄さんは特にあの人にご執心だったからね。腹が立つのも、分からなくもないけど。』
「お前…。」
『でも考えてもみなよ。あの人みたいなタイプ、好みだった?違うっしょ。猫撫で声を出して纏わり付いて可愛い子ぶりっ子するようなの今まで見向きもしなかったでしょ。それなのにどうしてあの人に惹かれたのかっていうのはね、運命なんかじゃないよ勘違いしちゃダメ。あの人はそういう人なんだよ、周波数を狂わせて自分に向けさせる能力に長けてんの。だから、』
「黙れ!テメェにアイツの何が分かる」

怒りのあまりか顔を真っ赤にして獄寺は立ち上がり声を荒げる。その様子にツナもリボーンも柳眉を潜め。二人の空気を感じ取ったのか、彼女ははぁ… と息を吐き出した。ケーキの箱を持ったまま、立ち上がった。

『成る程ね、お兄さんの本命はコレか』
「あ、分かった?」
『分からいでか。…まぁ今回はしょうがないから引き受けるよ。元はと言えば私が原因だしね。で、も、 普段はこんなんしないんだから特別料金貰うかんね!』
「うん、それは全然構わないよ。…でも、大丈夫?」
『引き受けたんだから大丈夫に決まってるっしょ。銀髪のお兄さん、奥のテントに来んさい。あんたの目覚まさせてやんよ』

ふー…っと煙管を口から離し、肺に溜め込んでいた煙を一息に吐き出す。そして先導するように歩き始める。背中に突き刺さる獄寺の視線は無視をして。今回ツナたちが再び彼女の元を訪れたのは他でもない。獄寺をどうにか出来ないかと思ってだ。ご覧の通り先日彼女がスパイだと告げた女に随分と溺れており。目を覚まさせることは出来ないかと、お礼も兼ねて連れてきた。
そうすれば、出来ると。
やはりどうやらただの占い師ではなさそうだと、ツナとリボーンが目を合わせた

テントの中にドカッと彼女が腰を下ろし胡座をかく。

『どうぞ、座りんさい』
「……ちっ」

舌打ちをしながらも彼女と同じように獄寺も胡座をかく。それを見やると、煙管を灰皿の上に置き。 この間とは違う、羅針盤を取り出した。

『銀髪のお兄さん、こっち持って』
「ん、」
『よし。んじゃあの人が狂わせたお兄さんのチャンネル、直してあげまっしょ』

羅針盤の反対側を獄寺に持たせ、自分も羅針盤を掴む。何をするのかと伺うように見ていれば、羅針盤の真ん中に開いた穴にパラパラと粗塩を入れ。空いている片手の指で持って羅針盤を回す。
カラカラ、カラカラ まることなく回り続けるそれを眺めていれば、塩を入れた中枢に次は小瓶に入った水のようなものを入れて。どうしてか視線が逸らせず眺めていると、傍らに置いた煙管を再び持ち深く煙を吸い上げー…
ふっ!
羅針盤の中枢に向けて煙を吹き掛けた。
ぶわぁっ
と、吹き掛けた量より遥かに多くの煙が中枢から発生し。それが獄寺に掛かったかと思えば一瞬にして過ぎ去る。 なんだなんだと羅針盤からは手を離さず振り向けば、深緑の煙が漂っていた。発生した煙は確かに白かったハズなのに…。

『銀髪のお兄さん、羅針盤見てみ』
「あ…?」
『動き、止まって銀髪のお兄さんのほう向いてるっしょ。これでもう大丈夫。』

言われて羅針盤を見てみると、確かに動きは止まり矢印のような突起が獄寺を指して止まっている。
これは、あれは、なんだ。

『あれがあの人の良からぬ能力だよ。これで銀髪のお兄さんはあの人から抜け出せた。ど? あの人に今でも会いたい?』
「…いいや。不思議だな、ついさっきまではあんなに…。」

己の心境の変化に獄寺自身がついていけない。驚き、呆然としていれば不意に彼女が立ち上がり。あの深緑の煙の元へ向かう。

『んじゃ、コレも処分しますかねぃ』

言うと、どこに持っていたのか銀色の細かい掘り細工の施された管を取り出し。それの蓋を開け、煙へと向ければぎゅるんと煙が吸い込まれる。一瞬にして消えてなくなったそれに驚くしかリアクション出来ない。これは占い師の範疇を超えている。

「…で、それはどうするんだ?」
『言ったっしょ?処分するって。やり方は企業秘密だけど』
「まぁ、占い師が手の内晒しちゃ食ってけねぇからな。なかなかイイもん見させてもらったぞ」
『お褒めに預かり光栄。お兄さんも何か占う?』
「いや、オレはただの付き添いだ。それよりもツナの婚期を占ってやってくれ」
「んな!」

緊迫した空気は薄れ、和やかなムード漂うところで今回はこれにて営業終了。
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