*


バタバタバタ。
慌ただしくも焦りを感じる足音がする。
心臓が爆発しそうになるほどにひたすらに走り続け、後ろから追ってくる足音から逃げて。撒こうにも相手も必死なのかなかなか撒くことが出来ない。
このまま真っ直ぐアジトに向かっては場所が知れてしまう。どうしても、追っ手を撒くか排除しなければならない―…。しかしここは一般人も多くいる通り。事を騒ぎ立てては怪我人を出しかねない。
正直なところ、ツナは焦っていた。

「(クソ、戦うことが出来ればあんな奴ら…!)」

そんな、どうにかしたいのにどうにも出来ないもどかしさが彼の精神面を少しばかり、削った。普段ならしようはずもない行動に走ったのだ。その時たまたま目に入った「占い」という看板に惹かれるように地下へ伸びた階段へ逃げ込む。
そんな逃げ場のない場所へ、しかも一般人がいるであろうところへ逃げ込むなんて普段なら絶対しない。なのに、何故か。ツナ自身その事にも気づかずひたすらに階段を降りて。辿り着いたそこには一枚の扉。迷わず開け、転がるように入り込んだ。扉を背にズルズルとその場に腰を下ろした。

『いらっしゃい』
「!」

肩で呼吸を繰り返し、どうにか整えようとしていれば声を掛けられる。弾かれるように顔を上げればエスニックな衣装に身を纏う自分より少しばかり年下な女の姿。少女と呼ぶには大人で、女性と呼ぶにはまだ幼い。そんな年齢の女の人が笑顔で立っていた。

『お客さん、随分走ったみたいですね汗だくだ。うちの営業時間はまだまだなハズだけど…。』
「あ、いや追われてて…」

そう口にした瞬間ハッと口を押さえた。しまった、何普通に揉め事に巻き込まれてますと言ってるんだ。そんな事を言ったら嫌がってココを追い出されるか、この人まで巻き込むかなのに…。そろりと店主らしき女の様子を伺うと嫌そうに眉間にシワを寄せていた。あぁ、やっぱり

『…なんだ、客じゃないのか』
「え?」
『あー営業スマイル見せて損した。…ほら、ンなとこに座り込んでないで横にずれるか奥に来なよ。他に来るかもしれない客が入ってこれないっしょ』
「出てけって言わないの…?」
『追い出されたいの?』

問いに対して問いで返されて若干焦るが、それにすぐさま首を横に振る。今追い出されたら確実に見つかって捕まる、かもしくはまた追いかけっこが始まるか…。いずれ出ることになっても少し休んでからにしたかった。
とりあえず言われるがままに扉の前からどいて息を整えていれば、ポイとミネラルウォーターを渡された。女を見ると『あげる』と口パクで言われ。ありがとうと同じように口パクで返せば一気に水を流し込んだ。

「…ぷはっ、い、生き返る…!」
『そりゃよかった。…お兄さんさぁ』
「ん?」
『しばらく匿ってあげるからさ、代わりに占いしてみない?もちろん代金払ってもらうけど』

命より安いっしょ?と言われ、確かにと頷いてしまう。占いにはあまり興味は無いが匿ってくれ、挙げ句には水まで貰ったのだ。お礼になるのならとコクンと首を縦に振れば、女はニッと笑って。
指で店の中に張られた、これまたエスニック調のテントの中へと導かれる。立ち上がり着いて行けば女の服に付いた金色の装飾品がしゃらんと鳴った。

『ここに座ってー』
「あ、うん…」
『そんな硬くならなくて大丈夫だよ。たかが占いだから』
「そ、そうだね…」
『まぁ、“されど”とも言うけど』
「…………。」

言いながらまた女はニッと笑う。そんな事を言われたら嫌でも気になってしまうじゃないか。 悪い結果が出ませんようにと願いながら、手渡されたタロットカードを言われるがまま切っていく。こんなもんかなと思ったところで女へと返せば、それを一枚ずつ床の上に置いていく。
生まれて初めての本格的な占い。走ってきた時とはまた違うドキドキが胸を襲った。

『…お兄さん、社長さんか何か?』
「え? あぁ、まぁ…。」
『ふぅん…。そうだろうね、そういう星が見えるし。……あ』
「な、なにっ?」
『これから周りがバタバタするね、でもお兄さんを部下の人らが支えてくれるから乗り切れるよ。あ、でも最近入ってきた女の子いるでしょう?可愛くてちやほやされてる子』
「うん。オレは何とも思ってないけど、なんか人気みたい」
『お兄さん直感力に長けてるから本能的に分かるんだね。その人スパイだから気をつけて。切るなら証拠をそいつとちやほやしてる人の前で叩きつけないと信じてもらえないよ』
「…そっか。」

そう突き付けられても、別段ショックでも何でも無かった。彼女の言うように本能的に察知していたからかもしれない。 とりあえず帰っったらまず彼女がどこのファミリーのスパイで、尚且つ新しいアジトの場所を考えなければ。幸い自分以外の誰にも、他のアジトの場所を知る者はいない。さてどうしようか、と考えていれば彼女が口を開いた。

『…お兄さん、テントの中に入って隠れてて』
「え? なんで…」
『お兄さん追いかけてる奴が来るから』
「!!」
『早く』

バサッとタロットカードを散らかすと、女はツナの腕を掴んでテントの中に押しやる。いきなりの事に慌てるが、流石にここまで面倒を掛けられないと振り向けばニヤリと彼女は笑っていた。心臓がドキリとする。

『いい?そこを絶対に動かないこと。そうすれば大丈夫だから』
「でも!」
『しー…。いいから、動かないでね』

そうは言われても流石に厄介ごとを頼むわけにもいかない。ただでさえ匿ってもらったのだ、これ以上は。身を乗り出し行こうとすれば強く扉を叩く音。つい、昔のヘタレだった頃の癖で縮み上がり中に引っ込んでしまった。ハッとするのも束の間、彼女が扉を開ける気配が。

『はーい、らっしゃーせー』
「おい、ココに男が来なかったか!?」
『いきなりかよ。男ならお客さんでいっぱい来ますけど?』
「そうじゃねぇ!しらばっくれてんなら犯すぞクソアマ!」
『犯す時間があるんですねー。お探しの人はどんな感じで?』
「…20代前半の、髪がススキ色で重力に逆らってる男だ。」
「(アイツら…!)」
『…あぁ、その人なら来ましたよ。追われてる風だったんであのテントの裏の非常口紹介しましたが』
「なに!?」
「行くぞ!!」

そう言われた追っ手たちは真っ直ぐ此方の、テントのほうへ来て。どうするつもりなんだ、と考えながら手に武器である手袋を嵌める。迎え撃とうと体を動かそうと外を覗けば彼女と目があった。動くな。その瞬間先ほど言われた言葉が脳裏に蘇る。途端体から力が抜け、ピタリと止まる。
そうしているうちに追っ手たちは非常口を出ていってしまい。遠退いていく足音に、やっと体の緊張が取れた。

『偉いね、ちゃんと動かないで』
「…こっちに来た時は本気で動きそうになったけどね」
『あははっ』
「もしかして… わざとこっちに来させた?」
『いいや。そっちに行かせないとアイツらは諦めなかったし、行ってもお兄さんが動かなかったら絶対見つからなかったし』
「どういうこと?」
『取捨選択だよ。お兄さんが動くか動かないかで結末は変わった。提示したのは私だけど、決めたのはお兄さん』
「…君、なんか色々とすごいね…。」
『どうも。さ、これでお兄さんは追っ手に見つからなくなったよ。大手を振って帰りんさい』

先程までのニヒルな笑顔とは違い歳相応の明るい笑顔を見せる。こんな風に笑うことも出来るんだと思いながら立ち上がった。最初はこんな逃げ場もない所に入り込んだ時は失敗したと思った。けれど、まさか彼女自身が逃げ道となろうとは。何があるか分かったもんじゃないなと内心で呟いて外への扉へと手を掛ける。
お礼を言おうと振り向けば彼女が手を出していた。

「…これは何かな?」
『決まってるっしょ、お代です。占いのみならず匿ってあげたんだから色付けさせてもらいまっせお兄さん』

思い返せば確かに代金を貰うが時間潰しに占ってやると言っていた。まぁこれだけ世話になったんだし当然だなと苦笑いを浮かべながらスーツの内ポケットに手を入れ、財布を取り出す。

「いくら?」
『諸々込みで5000円でいいよ』
「そんなんでいいの?君には助けてもらったんだし、もっと…。」
『必要以上はいらないよ。それより、ここでたくさん寄越さないでさお兄さんお礼したいってんならお客さん連れてきてよ。お兄さん、知り合い多いっしょ?』

そのほうが助かる、と付け足す彼女にやはり何とも商売上手な人だと感心しながら笑ってしまう。よし、ならば今度また知り合いを連れて会いに来よう。
prev next
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -