*


時刻は昼の12時を越えようとする頃。
場所は教会、鐘楼の麓。もうすぐ正午を告げる鐘が鳴る。それに合わせて引き金を。

『(弾は一発しか撃てない。二発目は…見抜かれてこちらが終わる)』

瞳をきゅう、と細めて掴むライフルのスコープを覗く。照準を合わせた先はとある豪奢な屋敷の一室。
そこにいる一人の男―。
長身で黒髪、こちらに背を向けていながらその体躯がどれほどしっかりとしているか分かった。きっと、目の前で対峙すれば滲み出る威圧感に圧倒されるだろう。今こうして暗殺しようとしながら、この依頼をしてきた主に向けて舌打ちをした。そんな事をしたって聞こえるわけでも現状がどうなるわけでもないけれど。

『(やっぱり蹴ればよかったか…。ヴァリアー暗殺部隊のボス・ザンザスの暗殺、なんて)』

笑えない、と思っていながらその口元は引きつったように弧を描いていて。まぁ結果的に依頼を受けたのは自分だし、これを成功させれば名が売れると野心を見せたのも自分。やるしかない。と腹を括って、引き金にかけた人差し指に力を込める。 バカデカいライフルの横に置いた時計にチラリと目をやれば、短針が後少しで頂点に着こうとしていた。危ない、鐘の音に被せて撃つつもりだったのにその機会を逃してしまうところだった

12時まで、後5… 4… 3… 2… 1…
ゴーン ゴーン ゴーン…
12時を告げる鐘が街全体へと鳴り響く。それが真後ろにあるせいか、体が鼓膜がビリビリと震える。けれど、今はそれに構っているヒマはない。
4回目の鐘が鳴ったその瞬間、グッと引き金を引く。派手な発砲音は鐘の音にかき消され、弾き出された銃弾は真っ直ぐにザンザスへと。的の小さい頭ではなく、心臓を狙って。
当たれ当たれ!外れるな避けるな当たれ!
弾がザンザスの元に届くまでのほんの数秒の間、必死にそう願う。何せ外れればそのまま自分の死へと直結するのだ。願う他ないだろう。嫌に速い心臓を抑えることもせずジッとスコープを覗いて事の顛末を見守る。大丈夫、殺せると信じて。けれど彼の願いも虚しく、弾は外れた。確かに標的であるザンザスがいたその場所に弾は命中したのに…。その場にザンザスの姿は無くなっていた。
見つかったとは思わないが、相手が相手だ。細心の注意を払ったほうがいい。そう決めれば行動は早く、持っていたライフルをたすき掛けにして背中に背負いそこから立ち去ろうとする
ジャリッ
足音が真後ろから聞こえた。
すかさず反応し、素早く背後へと振り返れば揺れる黒―。それを視界に入れゆっくりと顔を上へと上げれば、

「いい度胸してるじゃねぇか。このオレを狙うなんざ」
『…!』
「だが、度胸だけではオレは殺せねぇ」

憤怒がそこにいた。射抜くような眼差しをもって、怒りをその身から滲ませて。腰につけたホルダーからザンザスが銃を抜く。それをただ眺めるしかない。いや!それではダメだ殺られる!そう思った刹那、生存本能が彼を突き動かした。
ザンザスがトリガーに掛けた指をジッと見つめて、それを引く瞬間後ろに跳ぶ。場所は教会の時計塔。地上までの距離はザッと20m。
さて、彼は生きていられるだろうか。
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