*


さわさわと伸びきった雑草が風に揺れる。
草が茂る土手に腰掛け、雑草が映り込まないように仰け反り天を仰ぐ。相変わらず、手には相棒の一眼レフが。うっとりとした顔つきで、ファインダーを覗きその先にある濃紺の夜空を見る。雲一つない晴れた夜空にはきらきらと幾億もの星が散りばめられ、夜空を彩っている。どんな高価な宝石よりも美しく、眩く輝くそれは夜にのみ許された宝飾品。
そのうちの一つがスゥッと横にずれる瞬間、逃さず彼はシャッターを押した。流れる星の儚さに、瞬きも出来ない。幸いにも、この土手の周りには高い建物は少なく、所狭しとひしめく電線もない。今日という日のために数日をかけて探し回っただけはある


『(あぁ、なんてキレイなんだろう…)』

流れては消えゆく星の姿に感動を越え、静かに歓喜した。この美しさを残すことの出来る自分に、いやその技術に出会わせてくれた神にすら感謝を。はぁ… と、熱い吐息を吐き出しながらカメラ越しに再び夜空に視線を送る。

「おや…?」

砂利を踏みしめる音とともに、声。
静かな、けれどイヤに耳に残るような声にほんの少しファインダーから目を離してそちらを見る。彼の座る土手の横を通る砂利道に2本の足。ゆっくりと上へと顔を上げれば、夜空よりは明るい藍色の髪に見たことがない左右非対称の色の瞳。存在しか知らない所謂オッドアイというモノを初めて目の当たりにした。

「こんばんは」
『…こんばんは』
「こんな夜中に何をしているんですか?」
『あーと、流星群を、撮ってて』

空に向かって構えていたカメラを軽く見せる。
オッドアイの彼は何がおかしいのか、特徴的な笑い声を漏らした。

「クフフ、流星群を撮ってるんですか」
『うん。』
「さして珍しくもないと思いますけど。楽しいですか?」
『当たり前』

ニヤリと不敵な笑みを見せると、顔を再び空へ向ける。もちろん、ファインダー越しに。カシャカシャと星が流れる瞬間に、逃さずシャッターを切り星の終わりを記録していく。そういえば誰かが言っていた。

「流れ星は人の命…だとか、言いますね」

星が流れれば人の命が流れる
そんなことを誰かが

『あぁ…、オレも聞いたことあるよ』
「もしかしたら、あなたの写真によからぬモノが映るかもしれませんね」
『かもね。まぁ、それはそれで別にいいかな』
「…恐ろしくはないんですか?」
『生身の人間のほうが怖い』

一理ある。
キッパリと言い放つ彼にオッドアイの少年は小さく頷いた。先ほどと同じ、変わった笑い方をすると、おもむろに彼の隣に座り降り注ぐ星の雨を眺めた。 傘は必要ない。

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