「牡丹よ」
『今度は何だ』
「あの日と同じ誘いをしたら、お前は乗ってくれるか?」
『…………。』

答えなど分かりきっているだろうに。
幸村と名乗った熱い武将と不敬者の忍が来たときに共に行かなかったのだから。今では行かないではなく行けない、だが。妖の頃より出来る事は増えたが、あの頃より自由は無くなった。これから神としての経験値を積んでいけばもっと動けるようになるだろうが、いつになることやら。少なくとも信玄が生きている間は無理だろう。

『悪いが、乗ってやれんなぁ』
「そうか」

予測していた返事だけれどそれでも信玄は寂しそうに、悲しそうに目を伏せた。申し訳なさが滲むが、やはりどうしても行くことは出来ない。この地を守らねば。

「なれば牡丹よ、お主に何か礼をせねばならんな」
『礼?』
「その椿の礼じゃ」
『ああ…』

病を治した礼というところか。
別段これといって欲しい物もしてもらいたい事も―… と考えたところでピタと動きを止めた。それに首を傾げる信玄であったが考え事の邪魔をすべきではないだろうと口は出さない。ううん、と小さく低く唸る牡丹をそのままにぐるりと辺りを見渡す。決して広いとも見事とも言えぬ社と敷地だが村人の心が篭もっている。幸村からの報告の時も思ったが随分と大事に祀られているようだ。
どうしてか、此方まで嬉しくなってしまう。

『よし、じゃあそうだな』
「決まったのか?」
『ああ。この村と街道へ続く道を整備してくれんか』
「道とな」
『そうだ。何分閉鎖的な村だからな、外からの情報や物資が全く入って来んのだ。それではいつかこの村は無くなってしまう』
「ふぅむ、そうじゃな…。よし、では戻り次第早速手配しよう」
『助かる。…それに』
「む?」
『そうすればいつだって来ることが出来るだろう?』

ニヤリと不敵に笑う姿に面食らってしまう。しかし次には破顔一笑。豪快な笑い声が木霊した。
そんな、新緑に囲まれた逢瀬であった。

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