チチチ…と鳥の囀りが聞こえる。それがどうにも近くから聞こえて。何だろうと閉じていた瞳を開けた。視界には立派とは言い難い社。そして供えられた沢山の花。ぼんやりとそれを見ていれば頭上からまた鳥の囀りがした。

『(どうりで頭が重い筈だ…)』

見えはしないが恐らく枝のような角に鳥が止まっているのだろう。椿の花が咲いているのもあって本物の木の枝と間違えているのかもしれない。可愛いものだ。

『お前もそう思わんか。晴信』
「なんじゃ、気付いておったのか」

ゆるりと振り返ればその揺れに驚いてか、角に止まっていた鳥が飛び去っていった。それに俄かに寂しさを覚えながらも視線の先にいる人物から目を離さない。もう随分と昔に一度会ったきりの、青年の面影を薄らと残す男が社への出入り口のところに立っていた。体つきは以前よりも筋肉質になっているがあの頃よりシワが増えている気がする。牡丹たち妖―今は土地神だが―にとってはまばたき一瞬でも人にとっては数年に等しい。まだ赤子だと思っていた子が、気付けば妻を娶っているのにも頷けた。

『老けたものだなぁ、晴信。見違えたぞ』
「会っていきなりそれか。久しぶりだというのにのぅ」
『久しぶりというか、まだ会って二度目だぞ?』

クスクスと笑いながらその白魚のような手で花を一房摘み取る。そうしてぱくりと口の中へ。牡丹にとって何ら変わり映えのない日常の動きをしてみせただけだが、信玄にとってはとてもとても懐かしい光景で。思わず目を細めてしまった。
魅入ってしまいそうになるが此処に来た理由をふと思い出す。それを胸に一歩二歩と信玄は牡丹に近付いた。影が掛かる。

「お主には感謝せねばならんな」
『何だいきなり』
「お主が幸村たちに託してくれた椿のお蔭で、この通り病を治すことが出来た。…ありがとう。」
『やめろこそばゆい!オレはこの村の為を思ってしたまでだ』

ぎゃああ!と何とも色気のない悲鳴を上げ自分の体を軽く掻き寧る。どうやらこのように感謝されるのは好きではないらしい。土地神となりこの村の者に祀られているのならば感謝される事もあるだろうに。変わった奴だ。昔抱いた印象と同じというのが嬉しかった。
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