偶然が偶然を呼んだとしか思えないような事で。例え代替わりの時期だったとしてもそういうのはちゃんと… 素質のある者を選ぶんじゃないのか?
神というものはなかなかに適当だ。けれど佐助はまだ信じきれないでいた。

「…何か証拠はあるの?あるなら見せてよ」

余りにも失礼な言葉、態度に流石にいけないと感じた幸村は間髪入れずに声を上げようとするがそれよりも早く空気が震える。

『忍、不敬であるぞ』

木々が、動物が、場が戦慄く。
目の前にいる神は相も変わらず花を食んでいるというのに、その身から溢れ出る威圧感はとんでもない。数々の戦場を任務を潜り抜けてきた佐助であるがこの尋常じゃない威圧感は体験したことがなかった。そうして痛感する。この男が神だと。正しく神気漂わせる気に思い知った。

「っ申し訳ございませぬ!主としてありながら部下にこのような振る舞いを許してしまい…!神罰ならば某が受けます故どうか…っ」
「なっ、大将!?」
『…別に、神罰を与えようとは思っとらんさ。神の在り方もよく分からない若輩者だからな』

寛容と言うべきなのか何なのか。牡丹は至極面倒くさそうにまた一つ花を摘む。懐が広いと勘違いしたのか幸村はいたく感激しているようだったが。口に入れた花を飲み下すと今度は牡丹から口を開いた。

『で、貴様らは何用で此処まで来た』
「そうでござった!つかぬ事をお伺いするが牡丹殿は武田信玄公をご存じであらせられるか?」
『武田…。この甲斐を治めている人間か』
「そうでござる。その武田信玄公… お館様が、昔貴殿に出会ったと。そして今再び貴殿と会い見えたいと願っておられるのです」
『武田信玄…?会ったことあるか…?』
「…信玄と名乗る前の名は、晴信と。何か思い出されぬか?」
『晴信…。……ああ!あの時の童か!』

童。よもや知らぬ者はいないとまで名高い甲斐の虎をそんな風に呼ぶ者に出会えるとは。きっとこの者だからこそなのだろう。

『うん?そう言えば何故晴信が来ておらんのだ』
「っお館様は…っ」

当然の疑問。
けれどそれを口にすれば何やら言いにくそうに俯き唇を震わせた。それだけで何ぞあったか伺い知れて。人間というモノは本当に脆弱なのだなと思う。

「今は病に罹り、床に臥せられておられます。それ故、某が貴殿を…っ」
『成る程、病は気からと言うからな。元気づけたかったか』
「左様に御座います!」
『ふむ。まぁ無理だな』
「何と!?」
「ちょっとちょっと、もう少し考えてくれてもいいんじゃないッスかー?」

あまりにも即答な返しに思わず今まで黙っていた佐助も言葉を発してしまう。けれどさして気にする事もなく、牡丹はガリガリと角の付け根を掻いた。揺れる椿に目がいく。

『俺は此処の土地神。この地を離れる事は出来んのだ。会いたきゃ自分の足でおいでと伝えとくれ』

そう言うと、牡丹は徐に手を角へと伸ばし其処に咲く椿を一房摘み取る。真っ赤な椿は傷一つ無く、見た目からでも瑞々しさと艶があり上等なものだと分かった。ぼんやりとそれを見ていればポイッと投げ渡され。慌てて、花を潰さないよう受け取った。

『それを乾燥させて煎じたモノを晴信に飲ませるといい。病が吹っ飛ぶぞ』

とても綺麗に、牡丹は笑って言った。


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