思い掛けない光景に、とりあえず誰かに話を聞かなければと歩き出す。そんなに大きな村ではない為すぐに村人に会えるだろうと花を眺めながら進んだ。
詳しい訳ではないが実に多種多様な花が咲いている。よくこれだけの種類をこんな孤立した村が集められたものだ。並々ならぬ努力を感じたが何故ここまで花を集め咲かせられているのか。
その疑問はすぐに解決された。
遠目に見る子供たちが花を抱え、神社と思わしき社に入っていくのが見えた。成る程、花は神への供物か。互いに一度視線を合わせると子供たちの入っていった社へと向かう。少しずつ社に近付くにつれ花の香りが強くなってくる。余程ここの神は花が好きらしい。

「花が好きなんて… 随分と酔狂な神様だね」
「確か、お館様の話していた妖も花を好んでいたような…」
「大将それは妖だろ?何がどうなって妖が神に… いや、語ってるのかもしれないな」
「何を言うか佐助!お館様の友人である妖がそのような!」
「分かんないよー?相手は妖、人間じゃない。俺様たちの常識が通用する相手じゃ―…」

ない、という台詞は口から出されることはなかった。社に入っていった子供たちが石造りの階段を降り、戻ってきたから。その子たちの手には花はない。馬上から声を掛ける。

「すまぬ、尋ねたい事があるのだが」

何ら変わった内容でも奇抜な格好をしているでもなかったのだが子供たちは皆目を丸くして幸村を見上げた。余所者が珍しいのかと思ったが子供の内の1人が「お侍さまだ…」と呟いたことから、侍自体が珍しいのだと知る。…この村は本当に平和なようだ。

「この辺りで花を食む妖の話を聞いたことはないか?」
「花…。妖じゃなかったら知っとるけども…」
「何?それは一体何者でござるか?」

妖でなくとも近い者に聞けば何か分かるかも知れない。そう思い話を更に聞こうとすれば子供たちは揃って階段の上の社を指差して。ぱちくり、と瞬きを一つ。

「この村の土地神様が花を食うよ!」
「牡丹様って言ってね、病を治してくれんだっ」
「お供えした花がホントに減ってくのーっ」わいわいがやがやと矢継ぎ早に次々と口を開く子供らにやや目が回る。
探していた者は妖。神ではない。
けれど共通点というか名前がもう決定的ではないか。妖が神に成れるのか。その経緯は。よもや佐助の言う通り神の名を語り村人を騙しているのでは…。様々な憶測を脳内で組み立てていく。とりあえず子供らには礼を言って帰らせると、佐助を神妙な面持ちで見た。

「こりゃ俺様の推理が大当たりしちゃうかも?」
「…まだそうと決まった訳ではない。上の社に行ってみよう」
「行かなくても分かったようなもんですけどねー」

馬から降り、適当な木に手綱を結びつけるとグッと顔を上げて社への階段を上がる。村人たちが手ずから作り上げたのだろうそれは所々踏みしめると揺れる部分があった。素人造りのそれはとても素晴らしいモノとは言えないけれど、暖かみを感じれて。
ここの土地神は大層大切に祀られているらしい。
一段一段上がっていくにつれて風に運ばれてくる花の香りが強くなる。上はどうなっているのだろうと緊張と不安と期待をない交ぜにしながら、足を進めた。そうして遂に、社へと辿り着く。
ぱくぱく
むしゃむしゃ
もぐもぐ
ごくん
不意に咀嚼音が耳に入る。そして視界にも何者かが物を食べている様子が映った。

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