花に伸ばす手も枝からだらりと垂れる足は色白ではあるが確かに人の物。胴体も同じく。然れどもその更に上… 頭は、人と言うには難しかった。 大まかに言えば人に見える。人の顔をしている。のだけれども、生える髪色や頭から生える角がその者が人外であると物語っていた。
妖だと、一目で理解した。
長い石竹色の髪に牡鹿のような立派な角。その角からは真っ赤な椿の花が咲いていて。髪色も椿も、そんなに花を食べたせいだろうかと考える。

「…其処の者」

もぐもぐもぐもぐ

「主は妖か」

ぱくぱくぱくぱく

「…人の話は聞けぬと申すか」

むしゃむしゃむしゃむしゃ

「っいい加減その手と口を止めぬか!!」

ぴたり
募る苛立ちをそのまま荒ぶる声へと変えれば思ったよりも大きな声が出て。数羽の鳥が飛び去るのを耳で確認した。その耳にはもう咀嚼音も届かない。

『……今のは俺に言ったのか?』
「お主以外に誰が居る」
『いや…』

晴信が口にした通り、手と口を止めて枝に腰掛ける妖は視線を下へとずらした。かちりと合う視線に少しだけ身を硬くするがそんな事は知らないとばかりに妖は口を開き。

『すまなんだ、人に俺が視えるとは思わずてっきり他の誰かに話し掛けているものとばかり…』
「仕方あるまい。ワシもよもや妖を見、話せるとは思わんかったわ」
『ふぅむ…。して、童よ俺に何用かあるのか?わざわざ食事の手を止めさせたのだ、相当なものなのだろうな』

きゅ、と細められた目と妖から投げられた言葉にはたと目を見開く。何用か。そう問われても正直困る。何せ何の用もないのだから、返す言葉などない。ただの好奇心で姿を捜し、声を掛けたのだ。
ううむ、と晴信は唸り声を上げがしがしと頭を掻く。

「すまぬ、特に用があるというワケではないのだ。得体の知れぬ者が居ると、好奇心でな…」

本当に困ったと、眉を八の字に下げ偽ることを一切せず有りの侭を口にする。人であればやれやれと肩を竦めて終わりだが…。相手は妖。人ではない。それ故に人の物差しで計る事は出来ないのだ。大した用もないのに食事を中断させてしまった。それがこの妖にとってどれほど大事なことなのか。夢中になって花を啄んでいる姿を目撃しているのだ、知ってしまっている。己の身にのみ妖の牙が向くのならそれでいいが、もし民や臣下にまで及んだら…。それを想像して、やっと己の軽率さを恨んだ。

『童は素直だなぁ。それは良いことであるかもしれんが時と場合を考えんと己の首を絞めることに繋がるぞ』
「……それだけか?」
『ん?』
「呪ったり、祟ったりはせんのか。ワシはお主の食事を邪魔したんじゃぞ」
『あぁ、そうだったな。さて食事食事…』

答えのようで応えていない返事をすると妖は花を食むのを再開させる。
ぱくぱくもぐもぐむしゃむしゃ ごくん
目の前にいる晴信の事など微塵も気にせず、またひたすらに花を摘み口へ。そんなに無遠慮に摘んでいたら、この木の花が全て無くなってしまうのでは…。けれどその心配も違うことへ関心が向いてしまい、霧散して消えた。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -