携帯を開いては閉じる。この、一連の動作を一体何回繰り返したのか覚えていない。ただ、いつ画面をみてもディスプレイに映る、新着メールや電話の着信履歴などはなく、らしくもなく少し凹む。
自分が日本に来てから、暫らくアイツとは会っていないのをつまらないと感じてしまう自分が居ることに気付いているが、どうしようもない。

【そう言えば、君は笑った】

アイツ……数馬は気まぐれな節が見受けられることが多かった。それはメールの返事が帰って来なかったり、約束を急にキャンセルされたり。
それが嫌じゃない訳ではないけど、出来ることならちゃんとメールを続けたいし、休みの日には二人で出掛けたりもしたい。けど、何事においてもルーズな人間である点も、また良いと考えてしまうのだから何とも言えない。

「はーあ、」

ボンゴレ十代目になるだろう十代目と共に行動するのは構わないし、右腕としては常に傍に居れることが誇らしい。けれど、ふとした時に思い出すのは、自分がイタリアに残してきた恋人の名前のことばかりで、これだけはどうしようもない。
会いたい、けど、距離が距離な訳で会えるはずがない。頭では重々分かっているなにも関わらず、煙草を取り出せば「未成年なんだからダメだろう」と叱ってくれる存在が恋しい。
数馬が、恋しい。

「あれ?獄寺くん。ここでどうしたの?」
「あー、サボりッス。そういう十代目は?」
「え、あ、オレもそんな感じ……かな?」

屋上でボーッとしていた俺の頭上から声が聞こえる。見上げて存在を確認するするまで十代目の存在に気付かなかったことに驚く。今までどんなに遠い所にいる姿も見つけてきたのに気付かなかったとなれば相当遠くへいっていたのだろう。

「なにか考え事でもあるの?オレで良ければ相談に乗るけど」
「考え事ってもんじゃないのですが、イタリアのことを思い出して」
「あー、それってホームシック?」

俺の複雑な心境に気付いたのか、十代目が適当な言葉だと引っ張り出したそれは、的を得ていると称せば間違いではない。そんな感じだと曖昧に頷いて煙草を吸おうとズボンのポケットに手を突っ込んだ。引き出した時には少し歪んでいる箱と空に近いライター。

「名前って言う奴をイタリアに置いてきてるんすよ。俺が日本に来る時もアイツ、出迎えに来なかったから」

ライターより灯した火を煙草の端に宛て、細長い煙が一本、空に向かい放たれてゆく姿を目で追う。
十代目の顔は横髪が邪魔でよく見えないが、少しだけ笑っている気がした。緩んだ口元に違和感を感じる。あるのかと煙草を口にくわえて首を捻ろうとした時だった。どんっと、何かが背中に体重をかけてきたのは。
 
「はーやとっ」
「は? ちょ、え、名前!?」

後ろを振り替えれば自分のよく見知っている顔。自分よりも年上なのに童顔で、背の高い名前が居た。
先程まで恋い焦がれていた意中の人物がぬっと、俺の首筋から顔を出して俺を覗き込んでいたのだ。驚かないほうが可笑しい。俺の驚き様に笑う名前と十代目。もしかして、先程十代目が此処に来た時に言葉を濁していた理由はこれなのだろうか。だとすれば、先程考え事に近い名前への悩みを口に出していたことは全て本人である名前に聞かれていた訳だ。恥ずかしさから頬が赤く染まる。

「まさかこの子が隼人の言う十代目だと知らなかったからさ、道を聞いてしまったよ」
「そ、それはどうでもいいけど……此処、学校だぜ?」
「それは大丈夫。
ちゃんとフウキ委員?って所から許可もらったから」

あの雲雀から許可を貰えると知れば全校生徒が度肝を抜かれるに違いない。毒気のない笑みを始終絶やさず浮かべている姿を見るに、流石だと妙に感心してしまった。……って、そんな感心してる場合じゃない。

「お前、学校はどうしたんだよ」
「愛しのハニーの元に来るのに学校なんて関係ないだろ?」
「いやいやいや。つかそのハニーってやめろ」
「えー、いいじゃん。可愛い隼人にぴったりだよ」

掛けていた眼鏡が少しだけズレたのを直しながらさらりと爆弾発言をしてきた名前。十代目の頬も、そして不服だけど俺の頬も赤くなることに奴は笑った。

「たまにはいいんじゃない?国と国を越えて会うっていうのも」

本当に名前は掴めない男だ。俺が日本に来る時は全然寂しがるとかの素振りは見せなかったし、俺が想った時に不意にやってくるのだから自分より一枚上手な感じがして腹が立つ。けど、その腹が立つの裏側には、すっげぇ嬉しいって言葉もあったりするから尚のこと許せない。

「次、会う時は俺から行くから」
「なんで?」
「そりゃあ決まってんだろ。名前よか俺のが上になるから!」

身長も、煙草を吸う仕草が似合うこととか、強さとか、そんなの全部ひっくるめて、抜かしてやる!
近づいて、追いついて、抜かして……そして、そして、次こそは名前のが俺を意識させてやるんだ。

【そう言えば、君は笑った】
(明るく優しく笑う姿を)
(この手で一生守ろうと決めた日)
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