思い起こせば事の発端は数十分前の出来事に遡る。「ケーキを買ってきて」と唐突に告げられた言葉の真意が掴めずにおうむ返しに言葉を返せば、もう一度同じ言葉が……って違う。オレが言いたいのはそんな事ではなくて、彼の性格を知ってるが故の疑問なのだ。つまり、何故甘いのが苦手であろう彼がそんな事を注文するのかと言う事である。
渡された地図と“御用達様専用注文票”と書かれている紙を渡されてしばし思考停止。……恭弥、お前お得意様なのかよ!信じらんないと視線を向けてれば無言で懐から取り出されたトンファー。それを見た瞬間反射的に敬礼した記憶は未だ新しい。つーか、中学生にパシられてるオレ立場ねぇじゃん。
「早くね」と云われた言葉に改めて彼がジャイアニズムだと言う事が理解出来た。初めて行く場所なのに……そりゃあ極力努力するけどさ、店員さんに注文票を見せれば顔が真っ青にする程の量で流石にそれは無理だと思うぞ。他の客を放ったらかして店員総出でケーキを箱へと詰め込む始末。更にケーキ代だけで壱万円いってしまったあたり、お得意様と云われる意味が理解出来た。そして代金を先に払う程、彼がケーキに掛ける愛情は凄まじいのだろう。満面の笑みでケーキを食べる彼は到底想像し難いのだが。
 
大量のケーキをまぁよく一人で持てと言ったもんだ。彼の性格が垣間見られる一面である。しかし、引き受けてしまったのは仕方ないと極力揺らさない様に持って帰ってきた所なのだ。そしてそんな先出会ってしまったのは漣生徒会長。詰問される理由は十分理解出来るのだがこんな時に限って出会うとは。もっとこう……リボーンに銃を向けられた時とかに出会いたかったな。

 

どうやら会長の中でオレは生徒では無いと判断されたのだろう。いきなり手を掴まれて歩き出すもんだから前につんのめりそうになる。「きょーやに始末していいか聞こーっと」向かう先は応接室ってのは非常に有難いけど、貴方そんな性格だっけ!?


「あ、そう云えば名前は?」

「矢野数馬です」

「数馬君と云うより数馬さんって言った方がいいかな?勝手に名前呼びにしちゃったけど。因みに俺は御柳漣って名前で、此処の生徒会長やってまーす。俺の事は漣でいいからね!」


好きな食べ物はメロンパンで、と指折りつつ朗らかに自己紹介をする生徒会長に知ってますとは言い出せなくて、更には会長は女の子が苦手なんですよねと彼のトラウマを抉る様な事を口走ってしまえば京子と早々別れなければならないかもしれない。しかも次の再会は天国でか……うん。間違えても口を滑らせてはいけないな。メロンパンって美味しいよね!と素敵な笑顔を乗せながら聞かれた質問に生返事返しつつも過ちを犯さない様、念入りに戒める。


年齢は恭弥と同じで不明なんだっけ?とか、睫毛長いなー、とか、オレと数センチしか変わらない身長に嘆いてみたりと無言の間をなんとか過ごす事に成功したオレ。と言っても決して気まずいとかそんな事も無く、ケーキを持ってくれたり並盛中の校歌を口ずさんでいる様子から察するに機嫌は悪そうに見えないし、無言でも苦では無かった。
何故彼が機嫌が良いのかは判らないけれど、取り合えずマイナスイメージは持たれていない様だ。そっと安堵の息を「ん?」と首を傾げられた。


「どったのー?不審者の数馬さん」
 
「(不審者って……)いや、特に何もないんですけど、御柳会長は見た目と……思った以上にギャップあるなぁと」
 
「(思ってた以上?)よく言われるかな。この容姿皆に恐がられるんだよね。数馬さんも初めてはビビッてたよね」

「!」

「あー、慣れてるから気にしないで。俺自身気にしてたら黒に染めてたりするし」


赤って格好良くない?毛先を摘みながら小さく笑った彼を見て更に緊張が解れた気がした。中学生には見えなくて、同年齢の友達と喋ってる。そんな感覚がしなくもない。彼が持つ柔らかで独特な雰囲気のせいかもしれない。流石にマズいなと先程の事を罵っていたのを咎めようともせず受け入れてくれた。
初対面で此処迄気が抜けれるのはきっと彼故だろう。


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