その店の前を通ったのは偶然で。
オレには縁もゆかりもないような小さな花屋。いつもなら花屋の前なんか通っても気にもしないで素通りなのに。店先に出て話をしているエプロンを着けた店員らしき女の子と客らしき花束を抱えた男。スーツをビシッと着てて、あぁこれからデートなんかなー 羨ましい。なんてぼんやり眺めてたら

『頑張って!きっとその人も喜びますっ』

なんてその子が満面の笑みを浮かべて。
…まぁ、うん、その笑顔に心臓撃ち抜かれちまったのな。なんつーかマジ撃たれる感覚がして道端で硬直して。あんな道のど真ん中で硬直とか本物のヒットマンのいい的だぜ。正直その日はどうやってアジトに帰ったか覚えていない。テメェの自室に帰ってもどこか頭はぼんやりしていて。それでもその頭の中を彼女が占めるのだから恋ってやつはスゴい。そこからのオレは頑張った。そりゃもう頑張った。無い知恵振り絞ってどうすりゃお近づきになれるか考えて。 それでまぁ思いついたのが何とも普通に花を買いに行くってので。あ、切り花じゃ誤解されっかもだから部屋に置く観葉植物をな。花を贈る相手がいるなんて思われたらそれこそ本末転倒なのな!なんつーか、滅多に使わないそっち方面での勇気絞り出して買いに行って。
結果大成功!
初めて会話した時は本気天国昇るかと思ったし、更には買った観葉植物について困ることが起きたらいつでも気軽に相談しに来て下さいって言われちまったし!オレ近いうちに死ぬんじゃね?ってマジ思った。
お言葉に甘えて観葉植物の元気がなくなったりなんかししたらすぐ店訪れて。なんてことを繰り返しながら少しずつ少しずーつ仲良くなっていき。 そしてオレは今日、ついに! 勝負を仕掛けることにした。

『花束ですか?』
「あぁ! 頼めるか?」
『はいもちろんっ。でも珍しい… というか初めてですよね、山本さんが花束買うの』
「そういやそうだな。なんだかんだ買ったのってあの観葉植物だけだし」

いやホントなんつーか、はた迷惑な客だと思うぜ我ながら。頻繁に来ては雑談混じえた相談してちっとも店の売上に貢献しねーの。客とはいえ、よく迷惑がったりしねぇなって思うのな。


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