だって不安なのだ。自分に魅力が無いみたいで。胸のことは横に置いておいたとしても何か他にあればナンパの対象になるだろうに。自意識過剰かもしれないが顔は整ってると思う。それなのに。いよいよ以て本当に自分の価値は胸にしかないということか。

『…いえ、とても魅力的だと思いますよ』
「例えばどこが!?」
『そうですね…。健康的な色合いの肌とか、柔らかそうな髪とか。あぁ、その…背中からヒップにかけてのラインとか私は好きですね』
「な…っ」

思わず一度背中を確認したあとバッと背中が見えないよう、男と正面を向き合わせる。
滅多に褒められない部分を言われたからか顔が赤くなってしまっていた。胸ばかり見るものだと思っていたから、それが物凄く艶かしいものに聞こえる。
褒められたりエロイックな手合いは程度よく慣れたと思っていたのだが…。慌てて正面を向いたディーノに、男は苦笑いを零す。

『そんな過剰にならなくとも…』
「だ、だってお前が…!いや、それよりも!」
『はい?』

多少視点が横に反れている気がするが、こいつも男。ならば今までと同じくどうせ胸に惹かれるんだろう。そう思いその面ん引っ張り出すべく、ディーノは武器を使い強引な手段に打って出た。これ見よがしに胸を寄せ、善良な1市民であるサラリーマンの腕に抱き着いたのである。
ちなみに武器というのは言わずもがな大きく育った胸である。コンプレックスであったハズのものを途端に武器にする。これが女の狡猾さ。そして何となく目的が変わってきている事も指摘してはいけない。

「なぁ… 本当はもっと惹かれるとこあるんじゃないか?恥ずかしがらずに言っていいんだぜ…?」
『え…』

実に柔和な微笑み、且ついやらしく誘う。
濡れた唇、上目遣い、腕に伝わる柔らかさと体温。片手でそっと男の太ももを撫でれば落ちない男はいなかった。男の太ももを撫でた指先で晒された自分の胸の谷間をなぞる。

「例えばここ、とか」
『あぁ… 赤ちゃんが産まれても母乳には困らなそうですね!』
「えっ」
『えっ』
「や、あのっ、えっえっ」
『(そうじゃなかったのか!?)あっ、えっと、あ!海とかで溺れても浮き輪代わりになりそう…』
「浮き輪!?」
『(でもない!)えぇっと、その〜… はっ!そうだもう昼休み終わりだ!会社に戻らないと!というワケで失礼しますっ!』

早口でそう言い切ったかと思えば払うようにディーノの腕を解き、脱兎の如くその場から走り去る。取り残されたディーノは呆然。かと思えば段々と怒りが募ってきた。

「何だよアイツ…!オレが全力で誘ったっつーのに靡きもしねーなんて…!絶っっ対許さねぇ!何が何でも振り向かせてやる!!」

話しかけたのも誘ったのも全て自分だというのに何とも傍迷惑な話だ。斯くしてディーノのサラリーマン落としが始まった。まずは相手の名前を調べることからろう。

ミルクシュガーの憂鬱


prev next
bkm
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -