今までに無いくらい幼稚で且つストレートな言葉に打ち拉がれ、そのあまりに沢田家を飛び出してしまった。そして乳牛発言により過去の恋愛遍歴まで思い出してしまったというワケだ。
思い起こせば以前付き合ったことのある男たちは皆胸をチラチラ見ていたし、ベッドの上でも執拗に胸を触って使って。胸に過去の男たちがどんな目線や考えを持っていたのかが分かってしまって気分が底辺まで落ち込んだ。コンプレックスを受け止めてくれていたと思っていたのに。

「はぁ…」
『すみません、隣いいですか?』
「え?」

晴れ渡る青空に顔を背けて地面を見ていれば声を掛けられる。パッと顔を上げればスーツ姿の男が立っていた。サラリーマンのようだ。手には何やら包み… 恐らくは弁当だろう。今が昼時なのだと思い出す。

「あ、あぁ、どうぞ」
『どうもすみません』

少し横にずれてからしまったと思う。
チラリと周りを見れば他にも空いたベンチ。だというのに自分の隣に座ってきた。確実にナンパじゃないか。人が落ち込んでいるのに付け入ろうということか。なかなか下種な考えを持ちやがる、と隣に腰を降ろした男を見る。
さて、どういう風に口火を切るつもりなのか。こういったシチュエーションの王道らしく『どうしたの?オレでよかったら話を聞くよ』などと言ってくるのだろうか?それともまずは何てことない日常会話をしてから安心させてメアドやケー番入手?悲しいかなナンパの経験は少なくないので頭の中で様々なナンパの手法が浮かび上がる。それに対する断り方も。さぁどうするんだと警戒するも、相手は黙々と弁当を食べるばかり。たまにケータイをいじる程度でこちらを見たのは最初だけ。予想外なことに目をしばたかせる。…いや、きっとまだ、これから何かしてくるに違いない。

「(とりあえず腹ごしらえしてからってヤツか…)」

いきなり声を掛けてくるよりもこうして様子を伺ってからのほうが厄介だ。頭がキレる証拠。どう切り抜けようかと考えチラチラと隣を気にするが、5分経っても10分経っても隣のサラリーマンが動く気配はない。それどころか音楽を聞き始めた。最早ディーノに興味は無いようで。

「(えっ、あれっ ナンパは? いやして欲しいワケじゃねーけどこれじゃなんか… オレに女としての魅力が無いみてぇじゃん…)」

ナンパされたいとは思わないが事あるごとにされてきた身としては驚き焦って。近付いてきた異性はみんな声を掛けてきた。ディーノにはそれが当たり前になっていたのだ。それが無いと不安になるのが人の心理というもので。

「あ、あのさぁ!」
『 ? 何でしょう』
「オレってそんなに魅力無ぇかな!?」
『は?』

急に何を口走っているんだ自分の口は。そうは思ってももう言ってしまった後。戻れはしない。



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