休むことなく手を動かす彼女を見て、表情が柔らかくなったなと思う。以前からどちらかと言えば物腰柔らかな性格ではあったけど、それにも増して。何と言うのだろうか、ああ母性というヤツか。

『…隼人どうしたの?そんなジッと見て』
「悪い、迷惑だったか?」
『そんなコトないけど…』

首を傾げる彼女、結花の手には小さな布と針。刺繍用の輪の嵌められたその布は鮮やかで可愛らしい刺繍が施されていた。まるで一枚の絵のようで。よくあんな細かい作業を続けられるものだと感心する。オレにはあんなのは無理だ。
テメェの武器であるダイナマイトを作るためある程度の細かい作業は出来るが、ああいった芸術的なモノは一切ダメだ。前衛的という上手い賞されかたをする程に。その才能が子供に伝わらなければいいなと思いながら、結花の腹を見る。

「もうそろそろだよな」
『なにが?』
「子供。産まれるの」
『…そうだね。最近は特に、早く産まれたいのかポコポコお腹蹴って大変だよ』

元気な証拠だね、と微笑みながら腹を撫でる様は母だった。そして同じく自分も父で。結花の腹の中にいるのは間違いなくオレの子供なのだろう。
けれどシャマルが言うには母親っつーもんは腹に子供がいると認識し、大きくなってゆく我が子と共に母親になるらしい。が、父親は産まれた我が子を抱いて成長してゆく過程でようやくその意識が出来るとか。似ているようでこの2つは全く違う。
普通なら結花のほうが情緒不安定になったりするはずなのに最近では寧ろオレのほうが悶々としている。ちゃんと父親になれるのか、なんて。

『男の子だったら、きっと隼人に似てやんちゃになるだろうから大変ね』

ふふっと声を漏らして結花が刺繍の施されたスタイを優しくなぞる。まるで日だまりにいるようだった。暖かくなっていく心に何もかもが満たされていく。抱えていた不安が溶けて消えて

「…女の子だったら、結花に似て可愛いだろうから悪い虫の駆除が大変だな」
『あら、』

木漏れ日の午後。笑い声が染みた。


花もくれん


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