「声は出せそうだね。出し方が分からない、いや忘れたか」

ほんの一瞬瞳を伏せた隙に忍者が目前に迫る。
目と鼻の先程しかない距離に死を予感するよりも早く、握った刀を動かした。しかし敢え無く小さな刃物に防がれる。これは何という武器だろうか。菱形をしているようにも見えたけれど。
首を狙って出した一閃は防がれた。ならば次は脳天だと子供とは思えない速さで刀を上げて下ろす。甲高い、嫌な音を立てて刃が折れた。くるくると回り、血を吸った大地に突き刺さる。しまった、獲物がない。顎先に忍者の武器が向けられる。

「はい詰んだ。私の勝ち」

実に軽い口調で言われ、思わずキッと睨みつければ露わになっている片目がニタリと半月を描いた。
死ぬのは嫌だ。生きたい。けれど目の前の男は自分より数段上。武器もない。どうしようもなかった。
だらりと腕から力を抜く。

「ふむ。この歳にしては申し分ないけど、実力はまだまだ。生への渇望は十二分。相手との力量の差を計ることも出来る、と」
何を言ってるんだろうこの男は。武器を突きつけられているのも忘れて首を傾げた。

「まだこの歳なら遅くはないし。君、私と一緒に来ない? まぁつまりは忍者にならないかって話」
「断れば死。頷けば生き地獄」
「どうする?」

聞いている癖に答えは一つしかないのか。
突きつけられている切っ先は揺るがない。刃先を見た後男を見ればまた半月。死にたくはない。生きたい。その為に今まで人の命を散らしてきたのだ。頷けば生き地獄と言うけれど、元より今こそが生き地獄。底辺を味わっているのだから痛みや苦しみなどどうという事はない。それにもうすぐ冬が来る。山で暮らすには辛い時期が。ひと冬の宿を借りる気持ちでいよう。春になったその時また考えればいい。
折れた刀をぽとりと落としてこっくりと頷けば、満足したように男は目を細め頭を撫でてきた。

「私は雑渡、雑渡昆奈門。まずは声の出し方を思い出すことから始めようか」

鬼拾い


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