※残酷表現注意。名前変換無。


緑が濃くなっていく
季節の移り変わり、植物の衰退を全身で感じるがそれに感動を覚えることはない。どころか困ったように眉尻を下げた。木々の葉が橙に色めくという事はこの後に待っているのは冬。冬の間は食料が調達し辛いから困る。木の実はもちろん動物も冬眠してしまう。熊に会わなくなるのは助かるが家のない山暮らしな自分に得は少なかった。冬の間だけでも住処を変えるべきだろうか。
薄ぼんやりとそんな事を考えながら抱えるようにして持っていた刀を手に持ち替えて立ち上がる。さて、今日も生きなければ。

*****

ざくりざくり。
実に軽やかな音を出して次々に人が死んでゆく。小さな体躯に見合わぬ大きな刀を上手く使い、斬る。見事と拍手を送ってしまいたくなるほどだった。そんな事をする者はいないけれど。誰かに習ったのかそれとも本能か。一切の無駄な動きを無くして急所のみを的確に斬っていて。下手なところを斬られないだけいいのかもしれない。手入れをされていないのであろう刀は刃こぼれし、人の血と油で切れ味はとても悪くなっていた。
それで死ににくいところを刺されれば地獄だ。
上がる断末魔。
吹き出す血。
斬る肉、絶つ骨の感触。
全てが絵空事のようでけれど確かな現実で。他人の命を奪ってでも生きようとする自分はとても浅ましい生き物なのだろう。しかし手は止めない。そうしないとこっちが死んでしまうから。
振り上げて、下ろして、横に薙払って、打ち捨てる。ふと手を止めて周りを見渡せばゴロゴロと倒れる人の死体。バラバラになりすぎていて、元が何人だったか分からない。ようやく息を整え、放り投げた鞘を拾う。

「へぇ、君が噂の鬼子?」

見知らぬ声が降りかかる。瞬間拾った鞘を声のするほうへ投げた。当たろうと当たるまいと一瞬気を逸らす事が出来ればそれでいい。そう思ったのだが相手は少しも動揺せず飛んできた鞘を受け止めた。
嗚呼、此を相手にするのは骨が折れそうだ。面倒くさい。ただ自分は生きるのに必死なだけなのに。

「んーまずまずの反応だね。…それにしても、酷い格好」

黒い頭巾に口布、装束。忍者という奴だろうか。話には聞いたことはあるけれど実際本物を見るのは初めてだ。皆目の前の男のように包帯を巻いているものなのか?思考がズレそうになるのを抑える。
忍者が口にする通り彼の格好は見れたものではなかった。髪はボサボサ。血や泥、その他色々なもので汚れた姿は一目で人と解するには難しい。夜の山道で出くわしたらまず間違いなく魑魅魍魎の類と思われるだろう。
着ている着物も帯ひもがなければ唯のボロ布だ。生きてさえいられれば格好はどうでもよかった。

「最近噂になってるんだよね。戦場狩りを殺す鬼子が現れるって」
「本当かどうか気になって見に来てみたんだけど…。いやまさか君みたいな子供とは」
「…何か返してくれない?もしかして喋れなかったりする?」

否定の為に口を開く。けれど言葉は出てこず、無意味に開閉するだけ。喋れないワケじゃない。ちゃんと声も発せられる。ただ声の出し方を忘れてしまっただけだ。もう人と話さなくなってどれぐらいだろう。声の出し方も忘れてしまう程、自分は人から離れたのかと少しだけ悲しくなる。

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