※逆ハー主と嫌われ主がいます。


どんよりとした空気はやたらと重かった。緊張で空気がピリピリとするのは試合前などに経験したことはあるが…。空気って重くなるんだな。それをこんな形で知ることになるとは思いもしなかったけど。
ため息を吐けばより一層、重くなる。

「部長…」
『あぁ、分かってる』

不安そうな声を上げるのは2年。ぐったりと俯いていた顔を上げれば円を描くように集まっていた面々の視線が突き刺さる。そのどれもが不安げな表情や怒りに顔を染めていて。コイツらがこんな風になるのも無理はなかった。そしてそれが限界に来ての、今回の緊急ミーティング。たった1人を除く、全部員が参加することとなった。
ぐしゃぐしゃと髪を掻き回し、意を決して声を上げる。

『…山本には俺から言う。コレは野球部全員の総意だと。…いいな?』

確認するように部員を橋から見回せば1人1人神妙な面持ちをしているが皆しっかりと頷いて。その決意に胸を打たれるが、少しだけ残念な気持ちにもなった。仕方ない。これは俺の役割だから。

*****

『山本、ちょっといいか?』
「…部長?」

朝に執り行った緊急ミーティングは終わり今は昼休み。教室にいるであろうタイミングを見計らい山本のいるクラスに来れば案の定居た。教室のドアを開けて声を掛けたワケだが、教室内の空気の悪さに一瞬眉をしかめる。視界の端に映る誰かの机は、ただ一言。酷かった。
元の色が分からないぐらいにマジックで落書きされていた。無論それらは皆罵詈雑言の数々。書きすぎていて何と書いてあるか分からなくなっているが、どうしてか“死ね”の文字だけが分かり暗い気持ちになる。そしてその見るも無惨な机の上には菊の花が飾られていた。
この状態をこのまま放置している担任もどうかしている。教育委員会にバレても知らねーぞ。それを無理矢理視界から追い払って山本を呼べば、少し面倒くさそうな表情。先輩に呼び出されてもそれとは、度胸があると言えばいいのか常識知らずと言えばいいのか。兎にも角にも以前の山本とは正反対な態度に虚しくなった。…今に始まった事ではないが。

「え〜、武行っちゃうのぉ?」
「愛美…っ」
「けっ、野球バカなんか居なくてもいいだろーが」
「そうだよ、愛美ちゃんにはオレがいるじゃん!」
「や、やだぁツナったら!愛美恥ずかしぃっ」

とんだ茶番を見せられて思わず顔が引きつる。そうしてそれに加わろと声を掛けたオレを無視しようとする山本にも。…コレ本当いい態度だよな。校舎裏とかに呼び出されてフルボッコにされても文句言えねーよ?しないけど。
俺のことをなかった事にして話始めようとする山本の腕を無理矢理に引っ張り廊下へと連れ出す。何やら文句を口にしていたが聞き流すに限る。我慢しろ俺。これで最後だ。

「っ何スか部長!オレ今忙しいんスよ!」

女と話すのにか?とは思ったが言わない。

『…そんなに時間は取らせねぇよ。すぐに終わる。』
「なら早くして下さい!もしオレがいない間に愛美が萩野に襲われたりしたら…っ」
『じゃあ今言うな。山本、お前野球退部だから』
「………は?」
『因みにコレは任意ではなく強制だ。部員全員の承諾を得てある。勿論顧問にも。じゃあそういう事だから、時間取らせて悪かったな』
「なっ、は、えっ!ちょっ待って下さい部長!」

忙しいと言うから簡潔に用件を伝え立ち去ろうとしたのに、それを何故か山本に阻まれる。忙しいんじゃなかったのかよ、と思いつつも振り返れば山本の焦ったような表情。今更かよ。


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