思わず一歩、後ろへ下がれば結花が小さく笑い声を漏らす。毒が含まれているような気がした。
自分はとんでもない思い違いをしていたんじゃないだろうか。彼女の身の安全を考慮して三成とは距離を取るべきだと。警察沙汰になってしまう前に、と。けれど本当はそうではなくて、彼女こそ結花こそ三成から離すべきなんじゃないか?この底無しの自己愛から三成を。
そうすればきっと三成は真っ当な恋愛が出来るんじゃ、

『とーくがーわくん』
「 ! な、なんだ…」
『私と三成を別れさせないほうがイイよ。そんな事したら多分、どっちか死んじゃうから』

言外に“お前にそれを背負えるのか”と言われてる気がした。そして思考の先手を打たれ手詰まりになる。何のことだと取り繕えば良かったものをあからさまに動揺してしまった。彼女の言葉を聞き、苦虫を噛み潰したような表情をすればまたくすりと笑う。間違っている。可笑しい。それは愛じゃない。
そう反論しようとしたが、声が出るより先にガチャリとドアの開く音。振り返ればそこには三成がいた。

「待たせたな結花… っ家康貴様ぁ!!何故ここにいる!」
「み、三成…」
「答えろ結花!こんな人気の無いところで、2人で何をしていた!?返答次第ではただでは済まさんぞ…!昼間私が言った監禁も実行に移さねばならない!!」
『三成三成、目がスッゴい血走ってるよ』
「黙れ!私は今そんな答えを望んでいるのではない!!言え!この男と何をしていたぁ!!」
『何もしてないよ。私が本読んでたら徳川くんが来て1人でずっと喋ってただけ。会話はしてないよ。ね、徳川くん』
「あ、あぁ。話しかけてもちっとも応えてくれないから正直困っていてな」
『ね?』

相変わらずのキレっぷりに困惑など微塵もせず、ニコニコと笑いながらすんなりと作り話をするのは流石としか言いようがない。話を振られ一瞬戸惑ったがすぐに合わせて頷く。コレで納得する三成ではないだろうと、彼をチラリと見れば案の定眉間にシワを寄せて閉口していた。

「……本当だろうな」
『もちろん。それとも三成は私のこと信じてくれない?』
「いや…。信じて、いる」
『っ三成!』

先ほどまでの狂気はどこへやら。
三成の言葉を聞くや否や結花は幸せそうに頬を緩め染めて、バックを引っ掴むと彼の元へと駆けた。飛びつくように抱きつけばぎゅうと抱き締め返される。少し苦しいが構わない。これは三成が自分を愛してくれている証なのだから。そっと三成が結花の耳に唇を寄せ囁く。

「だが、次はない」

低く掠れた声に肌が粟立つ。
本当は恐怖に震えなければならないのだろう。だが結花は喜びにより一層頬を染めるだけ。こんなにもこの男は自分を愛し、求め、独占し、執着する。その事実が狂おしいほど愛おしい。何事も無かったかのように体を離し、図書室を出ていく2人。最後家康へと振り返り結花が笑みを見せてやれば、彼は何ともやるせない表情をしていた。


あいのかたち

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