時は経って放課後。
日は傾き始め夕陽と呼べる色合いのそれが図書室に差し込み、何ともノスタルジックな雰囲気を醸し出す。紙や木の匂いが充満するその中で結花は1人本を読んでいた。他に人のいない時間帯。彼女が捲るページの音だけが静かに響いている。優雅で充実した一瞬だった。けれどそれを邪魔する者が。

『……いい加減視線が痛いんだけど』
「それはすまない。まさか気付いていたとはな」
『あれだけ見つめられれば誰だって気付くよ』

苦笑いを浮かべながら本から顔を上げれば、机一つ挟んだ先には1人の男子生徒が立っていた。精悍な顔立ちに高校生にしては筋肉の付いた体。学校内では男女共に人気を集める、徳川家康がそこにいた。
話したことはないが、どういう事か一方的に三成が毛嫌いしている為知っていて。人から聞いた話だが、聞いたところによると何もかもが三成とは正反対。こうして対峙してみて分かる。三成が月ならば、この男は太陽のような印象を受けた。
パタンと本を閉じる。
『それで、何か用?』
「あぁ少しばかりお前と話したくてな。今、大丈夫か?」
『三成待ってるだけだから平気。でも手短にしてね、怒られちゃうから』

昼間自分以外の男と会っていたのを咎められたばかりだ。随分と狂気じみた発言を聞かされてはいるが今まで一度たりとも手を上げられたことはない。だが流石にこの徳川家康であれば、いよいよもって三成に手を出されるかもしれない。
痛いのは嫌だなぁ、と心の中で呟いて家康を見れば渋い顔をしていた。何かあったのだろうかと首を傾げる。

「それなんだが…」
『どれ?』
「三成だ。中里は三成にあんな風に言われて嫌じゃないのか?」
『あんなってどれ』
「今日の昼休みに言っていたような事だ。監禁するとか手足をもぐとかそんな酷いこと言われて悲しくならないのか?怖くて言えないというのならワシが、」
『悪いけど、』

『私、三成のこと怖いとか一度も思ったことないから』

驚きに、家康は瞠目した。
強がっているのだろうか。それとも三成が怖くて言えない?そう思ったが彼女の瞳を見て違うと分かる。この目は本当に三成を恐れていない目だ。そして愛している。けれどどうしてだろうか。ほんの僅か、濁りが見えるのは。

『私ね、あれぐらい、三成ぐらい狂気的に独占的に愛してくれる人がいいの。』

口にしたのは彼に負けず劣らずの狂気だった。
自分だけを見、自分だけを愛し、自分だけを想い。
決して他人を見ず他人の干渉を許さず。他人に揺るがされない、絶対の愛。結花はただそれが欲しかった。どこまでもひたむきな愛を証明してくれるというのならそれが歪んでいても構わないと。彼女にとって三成は絶好の相手で。心配になってしまうぐらいの愛を囁いてくれる三成が愛おしくて堪らない。

『豊臣先生や竹中先生に向ける謎な忠義?はちょっと嫌だけどそれ以外に目立つ執着はしてないしね』
「…………。」
『…徳川くん、どうしたの? 汗かいてるけど』
「っ」

今まで宙をさ迷うようにしていた瞳が家康を捉える。多少淀んではいるが至って変わったところは見受けられなかった。それが何より恐ろしい。


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