適当に切ったタロットカードを返せば手慣れた手つきで女はそれを並べて。
捲り、絵柄を確認する女に倣うように見てみるが素人では何が何を表すのか皆目見当もつかない。悪いことは起きないで欲しいが、多分無理だろうと目下悩みの種を思い出し俯いた。

『…ふぅん、成る程ね』
「何か、分かったんですか?」
『それなりにね。…さぁてお兄さんの不景気面の原因についてだけどもーぉ』
「不景気面って失礼ですね」
『事実だからしゃーない。で、アレだね。何やら部活がよろしくない雰囲気だと』
「 ! 」
『あー… コレは確かに、ちょっと、いやかなり… 酷い』

ひっくり返したタロットカードの一枚をトントンと爪で叩く。衣装に合わせているのだろうか、その爪は綺麗に研がれ青を基調としたネイルアートが施されていた。いや、そんな事に注目している場合ではない。この女は何と言った? どうして部内の雰囲気が良くないと分かる。見ていたのか?それとも誰かに聞いた? 疑念ばかりが湧く。
占いというモノを信じていない手前、これが彼女の実力によるものだとはどうしても思えない。そう思っているのが顔に出ていたのか、正面に座る女がニヤリと笑った。あの笑顔だ。

『疑ってるね』
「それは、」
『まぁ疑いたくなるのもしゃーないね。お兄さんはただでさえ責任を負わなければならない立場の人間だからね。その警戒心は当然さ』
「…どうして、さっきから」
『視えるから。とは言っても信じらんないよねぇ。まぁ?これは何も占い師じゃなきゃ分からないって事じゃねーし』

ふぅ、と手にした煙管に口をつけ煙を吸い、吐き出す。その様になる動作から余程の年月、これを愛用しているかが伺い知れた。自分には一生縁も縁も無いものだ。スポーツ選手で在り続けたいのなら煙草なんて吸うもんじゃない。
しかし女の見た目は精々二十歳ぐらい…。十代からの喫煙が伺えた。だがそれを気にする事が出来ないような言葉が発せられた。占い師でなくとも分かる、とは…?

「どういう事ですか?」
『一種の心理学っつーか観察力っつーか? 中学生ぐらいの少年が部活道具引っさげながら暗ぁい顔して歩いてりゃ十中八九部活ないし学校関係で何かあったって分かる。』
「…………。」
『高校生かなと思ったけど、その制服は近くの立海大附属のもの。なら三年生。それがあんな暗い面持ちするってんならそれなりに責任ある立場… 部長とかなんじゃねーのってね』
「あなたは、」
『警戒心を解くなよお兄さん。今は誰にでも疑念を、疑心を抱くべきだ。こんな占い師風情に信を置いちゃならない』

窘めるような口振りに、ぐっと言葉と息を飲み込む。思っていた以上にこの人はスゴい人だと、そう思い自分の周りで起きている事柄を吐き出してしまおうとすれば。なら自分がここへ来た意味は?
周りの目を気にする事無く愚痴っていいと言ったじゃないか。これでは、本当に無駄銭だ。そんな幸村の心情を察したのか女が続けざま口を開いた。

『相談じゃなければ受け付けるけどね』
「…え?」
『相談ってゆーのはある程度信頼信用してる人間にするもんっしょ? それはちょっと受け付けらんないけど愚痴なら聞きまっせ』
「…………。」
『どうよ?』

挑発するような、野次するかのような表情を浮かべる女。それに触発されてかは分からないが、気が付けば幸村は己の内に溜め込んでいたモノを吐き出していた。

「転入してきた女の子がいきなり部のマネージャーになったんだ」
「ミーハー丸出しの仕事もろくにしない奴なのに、何でかみんながみんなアイツをちやほやして」
「自分だけがその子を好きじゃないのが怖くてでも安心して。ダメになってゆくみんなを止めたいのに止められない」
「どうすればいいんだ!このままじゃ王者立海は… いや、そんな事よりアイツのせいでみんながレギュラーがテニス部全体が…!」

心の中に溜めていた感情が、想いが爆発する。
幾ら注意しても変わることないマネージャーの仕事ぶり。失敗してはレギュラーたちに庇われ構われ嬉々とした表情を浮かべるアイツ。見限って、後輩たちを育てるのに心血を注ぐべきかと考えもしたがやはりレギュラーたちは苦楽を共に、そして全国の頂点を目指した仲間。見限れる筈がなかった。
助けたい。どうにかしたい。けれど空回りするばかりで。それどころか最近ではマネージャーを注意すればこちらが悪者扱い。あんなに虚しい事はなかった。

自分でも驚くほど、内に溜めていた思いが零れていく。こんなに溜め込んでいた事にもそうだし、何より今日初めて会った人間の前でボロボロと愚痴るのも。あぁ、でもスッキリした。多分俺は誰かにこの醜い感情を吐き出したかったんだ。世間体を、評価を、一切気にすることのない相手に。
呼吸がしやすくなった気がした。


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -