※無糖です。


『クソッ!離せこの野郎おぉぉっ!』
「まったく、“希望”は口が悪いデスねv」
『メモリーで呼ぶな虫唾が走る!』

ぎゃあぎゃあと1人けたたましく騒ぎ暴れるのは十代半ばの少年。黒いシルクハットに大きな体が特徴の千年伯爵に肩に担がれていた。コレといって拘束されているワケでもないのにどれだけ暴れてもその腕を振り払うことが出来ない。馬鹿力め、と少年は悪態を吐いた。それと同時にポイと床に放われ。突然のことに受け身など取れるハズもなく見事に尻から着地。

『イデッ』
「まーた“希望”ったら逃げ出したのぉ?懲りないなぁ」
「いい加減諦めたらどうだ?」
『うっせぇ若作りにホームレス!テメェらに口出しされる謂われはねぇ!』

ロードの心を盛大に傷付けるセリフを言うと“希望”と呼ばれた少年は千年伯爵に向かってタックルをかます。その予想外の瞬発力と威力に千年伯爵は吹っ飛ぶ形で倒れてしまった。その隙を見逃さないとばかりに少年は走り出した。どこへとも知れない空間へ。あーぁと声を出したのは懲りない少年にかはたまた危険な方向へ行ってしまったからか。

「千年公追わないの〜? “希望”…勇介逃げちゃったよぉ」
「ウフv まぁ大丈夫でしょう。どこへ逃げたってアクマたちの目がありますからネvV」
「怖っ」

いつも通り、何ら変わらない笑みを浮かべながら言うセリフは恐ろしげで。これは追われる側の勇介への同情を禁じ得ない。逃げ切るのは到底不可能だろうが、どうか今回は上手く逃げれるといいなと思ってしまった。果てない廊下を走り続けているであろう少年の健闘を祈るばかりだ。


―一方その頃逃げ出した勇介はと言うと、妙な部屋に迷い込んでいた。人の何十倍とあるぬいぐるみの山、何が入っているか分からないプレゼントの箱。まるでオモチャ箱を引っくり返したかのようだ。少し恐怖を覚え、部屋の雰囲気に圧倒されつつも頑なな意志を立て直しずんずんと進む。

『(くそ…!ぜってー家に戻ってやる!)』

感情をそのまま顔に出して歩いていく。苛立ちを募らせながらも頭に思い描くのは生まれ育った町。とても綺麗な環境で育ったとは言えないが、あそこは確かに大切な故郷で。生きる為に悪さばかりして、似たような境遇の奴らと連んで生活してきた。それがある日突然蘇ったよく分からない記憶のせいで無くなり。到底納得出来るものではなかった。 唐突に思い出した記憶、メモリー。それにより他のノアに対し家族愛というモノを抱いたが…。正直それよりもあの町で共に育った仲間のほうが大事だった。
当然だ、例え家族と言えどもあの辛い境遇を一緒にくぐり抜けてきたワケでも何でもない。記憶が家族だ何だと言っているだけで血の繋がりはない。言うなれば赤の他人。町の仲間も他人と言えば他人なのだが、アイツらは幼い頃から一緒だし…。言い難いが勇介にとっては記憶で繋がる家族より絆で繋がる仲間のほうが大事で大切なのだ。


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